元園長と考える“ほごしゃしえん” 第4回:「うちの子、他の子と違いますか?」~比べてしまうママの心に、そっと寄り添う7月の対話~

7月は、個人面談の時期を迎える園も多い頃。そこで増えるのが、保護者からのこんな一言。

「うちの子、他の子よりちょっと…遅いですか?」
「みんなトイレ行けるのに、うちはまだで…」

この“比べる問い”に、どう答えたらいいのか。保育士にとっては、毎年ぶつかる【保護者支援の壁】のひとつかもしれません。

「比べたくないのに、比べちゃう」ママの苦しさ

本当は、わが子のことを信じていたい。でも、同じクラスの子とどうしても比べてしまう。「うちの子だけが、取り残されているような気がする…」

その思いの裏には、「うちの子、大丈夫?」という不安と、「私の育て方、間違ってるのかな?」という自責の気持ちが、入り混じっています。

保育士が“正論”で応じてしまうと…

保育士としては、励ましたい気持ちで、

  • 「個人差ありますから!」
  • 「焦らなくて大丈夫ですよ〜」

と声をかけることもあります。

でも、それが“届かない”こともある。なぜなら、ママたちは「正しさ」ではなく、「わかってくれる安心感」を求めているから・・・

よくある場面:主任と新人の会話

  • A先生(新卒保育士)
  • ますみ

A先生:「今日、〇〇くんママに“他の子はもう昼寝布団自分でたためるのに…”って言われて…」

ますみ「そっか、その時なんて答えたの?」

A先生:「“その子のペースがありますよ”って言ったんですけど…お母さん、ちょっと寂しそうで」

ますみ:「うん、それね、正しいのだけれど“共感”が少し足りなかったかも」

A先生:「共感…?」

ますみ:「“比べたくないのに比べちゃってる自分”を責めてる可能性もあるよ。“わかります、その気持ち…”って、まず気持ちに寄り添ってあげると、安心して話せるようになるんだよ」

寄り添いの「ひと言」が関係性を変える

たとえば…

  • 「〇〇くん、昨日は一人でやってみようとしてましたよ」
  • 「△△くんも実は、去年の夏から急にできるようになったんですよ」

そんな“成長の物語”をさりげなく伝えるだけで、ママたちは「うちの子にも、タイミングがあるんだ」と思えるようになります。

保育士が“寄り添いの言葉”を育てるには

面談や日々の保護者対応で、うまく言葉が出てこない保育士。でも、それは「スキルがない」のではなく、「どんな言葉が“支え”になるかの実例」を知らないだけかもしれません。だからこそ、園全体で、

  • 実際の対話を振り返る場をつくる
  • 「この言葉、よかったよね」を共有する
  • 「どう答えたらよかったかな?」と一緒に考える

そんな「言葉の育ち合い」ができると、保育士はどんどん自信を持ち始めます。

最後に:比べてしまうママも、育っている

「比べないようにしたいけど…」そう思いながら揺れるママたちも、また、育っている途中。私たちがかける一言、“そのままで大丈夫だよ”というまなざしが、子どもと同じように、保護者を支える心の栄養になります。

☘️この夏、寄り添い力を育てる園づくりを応援しています!

この「保護者支援のコツ」シリーズでは、保育士が“保護者との関係づくり”に自信を持てるようになる言葉かけや、対応例を伝える研修も行っています。

「職員に寄り添い型の視点を育てたい」
「新卒や中堅が悩んでいるようで…」

そんな園長先生、主任の皆さま、ぜひ一度ご相談ください。

プロフィール:田村ますみ(たむらますみ)

保育園の育成トレーナー・研修講師として、保育士のスキルアップやチーム力向上を支援。園長経験を活かし、現場で役立つ実践的な研修を行う。自身の子育てや、不登校の子を支えた経験を通じ、保護者対応や子どもの心に寄り添う関わり方を伝えることが得意。一般社団法人「チェリッシュ」代表として、子育て支援にも尽力。

コーチングや心理学の専門資格を持ち、保育士が自信をもって子どもと向き合える環境づくりをサポートしている。

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