
「保育士の処遇改善手当って、結局どうなっているの?」と感じている方もいるでしょう。手当の種類や仕組みが複雑で、全体像がわかりにくいと感じる声も少なくありません。
本記事では、処遇改善の内容や支給方法、2025年度以降に予定されている制度一本化の背景と新たな仕組みなどを解説します。
目次
保育士の処遇改善手当(保育士処遇改善加算)とは?

保育士の処遇改善手当、通称「保育士処遇改善加算」は、認可保育施設で働く保育士を対象にした制度です。この手当は、保育士の給与を改善し、より良い労働環境を提供することを目的としています。
具体的には、勤務先の保育園に対して支給され、その園が保育士に対して適切に分配する仕組みとなっています。処遇改善加算には、Ⅰ・Ⅱ・Ⅲの3種類が存在し、それぞれ異なる趣旨や要件があります。
処遇改善加算Ⅰ
処遇改善加算Ⅰは、園長を除くすべての常勤・非常勤職員が対象です。内容としては、職員の平均経験年数・キャリアパスの構築などに応じて、加算率が最大で19%となる処遇改善を実施するものでした。
処遇改善加算Ⅱ
処遇改善加算Ⅱは、中堅職員や専門リーダーを対象とし、技能・経験に応じて月額4万円または月額5千円の処遇改善を実施する内容となっています。
処遇改善加算Ⅲ
処遇改善加算Ⅲは、全ての職員を対象とし賃上げ効果を継続される取り組みを実施していることを前提に、月額9千円の処遇改善を実施するという内容でした。なお処遇改善加算は、加算額を確実に人件費に充てることを条件にしています。
そのため、各加算ごとに施設は賃金改善計画書や実績報告書の提出が必要となり、地方公共団体において確認を行う仕組みとなっています。
※賃金改善計画書の提出は、令和6年度より原則廃止。
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保育士処遇改善手当の支給日や支給方法について
保育士処遇改善手当は、保育士の給与を向上させるために設けられた制度ですが、基本的に各保育施設が受け取った加算額は、保育士の給与に反映される形で支給されます。具体的には、手当や一時金としてではなく、基本給として扱われることが通常です。
ただし、処遇改善手当は国から施設に支給されてから、該当職員に分配される流れのため、施設の方針によっては、基本給とは別で支給される場合もあります。保育士が直接国から手当を受け取るのではなく、勤務先の保育施設を通じて支給される形です。
このため、保育士自身が自分の給与にどのように反映されているのかを確認することが重要です。
2025年度以降の保育士処遇改善加算が一本化される!?その理由

保育士の処遇改善加算は、これまでにⅠ・Ⅱ・Ⅲの3種類が設けられており、それぞれ趣旨や対象者、要件、加算額が異なっていました。
このような多様な加算制度は、保育士の処遇改善を目的としているものの、実際には手続きが煩雑化し、現場の保育士や園にとっては負担となっているという声が多く聞かれます。
ここでは、なぜ2025年度以降に保育士の処遇改善加算が一本化されるのか、その理由を解説します。
制度自体が複雑でわかりにくいとの声がある
保育士の処遇改善加算は、保育士の給与を向上させるための重要な制度ですが、その仕組みは非常に複雑であるため、多くの関係者から「わかりにくい」との声が上がっています。
特に、処遇改善加算にはⅠ・Ⅱ・Ⅲの3種類が存在し、それぞれの趣旨や対象者、要件、加算額が異なるため、保育施設や保育士自身がどの加算に該当するのかを理解するのが難しいのです。
さらに、制度の内容が現場の実情と乖離している場合もあり、保育士が実際に受け取る手当がその努力に見合わないと感じることも少なくありません。このような背景から、2025年度以降の制度一本化が検討されているのです。
事務手続きが煩雑で申請しづらい
保育士の処遇改善加算Ⅰ、Ⅱ、Ⅲを申請する場合は、各加算ごとに賃金改善計画書や実績報告書の提出が必要でした。現在は、賃金改善計画書の提出は原則的に廃止となってはいますが、それでも現場からは事務負担の大きさが叫ばれています。
そのため、より事務手続きを簡素化するために、今回の一本化が検討されているのです。
現場の実情と乖離している場合がある
処遇改善加算Ⅱに感しては、リーダー的な役割を担う中堅職員の専門性の向上を図り、キャリアアップの仕組みを構築する中で評価される仕組みです。しかし、各施設の規模感や職員構成によっては、条件に該当する職員を1名以上決めることが難しいケースもあります。
また、職員の構成に合わせて適切に賃金改善を図ることそのものが困難な状況も見受けられます。このように、手続きが煩雑化していることに加えて、要件を満たすための職員選定ができないなど、現場の実情と乖離している場合があるのです。
以上などの理由から、より柔軟な仕組みや枠組みにすべく、今回一本化が検討されています。
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2025年度以降の保育士処遇改善加算における仕組みを徹底解説

2025年度以降、保育士の処遇改善加算が一本化されることに伴い、新たな仕組みが導入される予定です。この新制度は、保育士の処遇をより一層改善することを目的としており、従来の複雑な加算制度を見直すものです。
具体的に見ていきたいと思います。
新制度を構成する3つの区分
2025年度以降に一本化される保育士処遇改善加算は、従来の複雑な制度をシンプルにすることを目的としています。この新制度は、主に3つの区分に分かれており、それぞれが異なる趣旨と目的を持っています。
<旧加算Ⅰ→区分①「基礎分」>
- 経験に応じた昇給の仕組みの整備や職場環境の改善
- キャリアパス要件の減率の仕組みは廃止とし要件化
<旧加算Ⅱ→区分③「質の向上分」>
- 職員の技能・経験の向上に応じた賃金の改善
- 対象職員への配分方法と金額を報告する必要がある
<旧加算Ⅰ・Ⅲ→区分②「賃金改善分」>
- 職員の賃金改善
このように、よりわかりやすい区分となっているのがポイントです。
園の裁量が拡大!柔軟な配分ルール
2025年度以降の保育士処遇改善加算の制度改革において、特に注目されるのが園の裁量が拡大する点です。新たな配分ルールでは、区分③「質の向上分」(旧処遇改善等加算Ⅱ)において、40,000円支給の「1人以上」配分ルールが撤廃となりました。
そのため、各施設の判断で対象者とその金額を決定することが可能になっています。具体的には、一人あたり40,000円を超えない範囲での配分で調整できます。
年度内に研修修了を予定している者、副主任保育士、専門リーダーなどに準ずる職位や職務命令を受けている者も条件に加えられました。
賃金改善の確認方法が変更
2025年度から一本化される保育士処遇改善加算は、賃金改善の確認方法についても変更になります。
具体的には、区分②(旧加算Ⅰ(賃金改善分)・Ⅲ)、区分③(旧加Ⅱ)による賃金改善方法、合計額は、1/2以上を基本給・決まって毎月支払われる手当によって改善できます。また、残りの1/2以下は、賞与および一時金での支払いも可能です。
賃金改善の確認方法が、より柔軟になることによって、保育施設の実情を踏まえた給与管理ができるようになります。
結局、給料はいくら上がるのか?国の賃上げ目標
2025年度以降の保育士処遇改善加算の一本化に伴い、国は保育士の賃金引き上げを目指しています。具体的には、保育士の基本給を引き上げることを目標としており、これにより保育士の処遇改善が図られる予定です。
余談ですが、こども家庭庁の資料「令和7年度以降の処遇改善等加算について」によると、保育士等の処遇改善については、令和6年度に関して公定価格の保育士等の人件費について、最大で過去最大の10.7%引き上げを補正予算に計上しているとのことです。
さらに2013年以降のデータを参照すると、累計で34%の改善が実施されていることもあり、国としては保育士の処遇改善に非常に力を入れていることがわかります。この賃上げは、保育士の職業の魅力を高め、優秀な人材を確保するための重要な施策とされています。
具体的な金額については、各保育施設の運営状況や地域の状況によって異なるため、一概には言えませんが、今後も国は全体としての賃金水準の向上を図る方針です。
また、賃金改善の具体的な方法としては、処遇改善加算を活用した賃金の上乗せや、各園の裁量による柔軟な配分が考えられています。これにより、保育士一人ひとりの給与がどのように変化するのか、今後の動向に注目が集まります。
国の賃上げ目標が実現すれば、保育士の生活水準が向上し、より良い保育環境が整うことが期待されます。
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保育士の平均年収は一体どのくらいなのか

国が保育士の処遇改善に力を入れていることは理解できますが、実際のところ保育士の平均年収はどのくらいなのでしょうか?
ここでは、政府統計の窓口「e-Stat」に掲載されている、「令和6年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種別」の情報を基に、保育士の給与実態について迫ります。
【企業規模別】保育士の平均年収
まずは企業規模が10名以上のすべての保育施設を対象とした平均年収について見ていきたいと思います。具体的には、保育士の「決まって支給する現金給与額(≒月収)」は「約300,000円」という結果になりました。
また、「年間賞与その他特別給与額」は、「約793,000円」となっており、これらを以下のとおり計算することで平均年収を算出します。
平均年収=決まって支給する現金給与額(≒月収)×12ヶ月+賞与等
したがって、決まって支給する現金給与額:約300,000円×12ヶ月+年間賞与その他特別給与額:約793,000円=平均年収約4,393,000円となります。
出典:令和6年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種別|政府統計の総合窓口(e-Stat)
なお、国税庁が公開している令和5年分「民間給与実態統計調査」の結果によれば、給与所得者の1人あたりの平均給与は約460万円。男女別では、男性が約569万円、女性が約316万円でした。
つまり、処遇改善に力を入れているものの、保育士の平均年収はまだまだ、その他の国内における民間事業者の平均年収には及ばないということになります。
保育士の毎月の手取り額
保育士の平均年収は理解できましたが、実際に手元に残る給与はどの程度なのでしょうか。先ほどの例で言えば、平均年収約4,393,000円でしたので、約430万円として考えていきましょう。
一般的に給与の総支給額からは、健康保険・年金・雇用保険などの社会保険料、さらに所得税や住民税などが差し引かれます。これらを考慮すると、実際の手取り額は総支給額の約75〜85%になることが推察されます。
保育士の平均年収が約430万円でしたので、これを12ヶ月で割ると月額換算で約36万円となります。ここに約75〜85%を当てはめると、手取り額はおおよそ約27〜31万円となります。
ただし、これはあくまでも企業規模10名以上、全保育施設における平均値ですので、実際には勤務する施設の企業規模や経験値、役職の有無などによって変動することは言うまでもありません。
保育士の処遇改善に関するQ&A
保育士の処遇改善手当についての疑問や不安を解消するために、よくある質問をまとめました。これからの制度変更に伴い、保育士やその関係者が知っておくべき情報を提供します。
Q1. 新しい手当はいつ、どのように支給されますか?
新しい処遇改善手当の支給日や支給方法については、園の方針にもよりますが、月給や賞与に上乗せされるケースが通常です。加算を受けた保育施設は、月給の一部として支給するか、年1〜2回支払う賞与として一括支給するかを決められます。
ただし、すでに本記事でもお伝えしたように、区分②(旧加算Ⅰ(賃金改善分)・Ⅲ)と、区分③(旧加算Ⅱ)に関しては、賃金改善方法として、1/2以上を基本給または決まって毎月支払われる手当により改善するものと規定されています。
つまり、月額に加算されて支給されるようになります。
Q2. 手当がもらえないケースはありますか?
2025年度から一本化される処遇改善手当に関しては、「キャリアパス要件」を満たすことが区分①の必須条件となっています。言い換えれば、園側がこれを満たしていない場合は、区分②と区分③の加算も受けられません。
キャリアパス要件の具体的な項目としては、「役職や職務内容などに応じた勤務条件の要件を就業規則に明記し周知徹底している」「資質向上のための計画に沿って、研修機会の提供や技術指導などを実施し、そのフィードバックを行っている」ことなどが挙げられます。
また、幼稚園教諭免許状や保育士資格などを取得しようとする職員がいる場合は、資格取得のための支援(研修受講におけるシフト調整や交通費などの援助など)を実施することも含まれています。
これらを実施していない保育園については、当然、処遇改善手当が支給されませんので、一度園側に確認してみることをおすすめします。もしくは、積極的に導入している保育園に転職を検討するのも選択肢の一つです。
Q3. これまでのキャリアアップ研修は無駄になりますか?
新制度に移行する際、これまでのキャリアアップ研修が無駄になることはありません。研修で得た知識やスキルは、今後の保育士としてのキャリアにおいても大いに役立ちます。
一方で、今後については、処遇改善手当について前向きにキャリア要件を満たしている保育園に勤務することがキャリアアップにもつながることは言うまでもありません。お勤めの園が2025年度から一本化される処遇改善加算に対応しているかどうか確認してみましょう。
Q4. 自分の園の支給額を知るにはどうすればよいですか?
自分の園の支給額を知るためには、園の管理者や経理担当者に確認することが最も確実です。それ以外の方法については、給与明細での表記は園ごとに決められておりますので、一度明細を確認してみてください。
例えば、園によっては給与明細書に「処遇改善手当」「キャリア手当」「専門職加算」などと記載されている場合があります。給与明細書を確認してもわからない場合は、園長や経理担当者に聞いてみるのが間違いないです。
まとめ
保育士の処遇改善加算について、2025年度以降の制度一本化が進められる背景や新たな仕組みについて解説してきました。これまでの処遇改善手当は、加算Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの3種類に分かれており、それぞれ趣旨や対象者、要件が異なり、手続きも煩雑でした。
しかし、制度の一本化により、よりシンプルでわかりやすい仕組みが期待されています。新制度では、園の裁量が拡大し、柔軟な配分ルールが導入されることで、現場の実情に即した賃金改善が可能になるでしょう。
賃金改善の確認方法も見直され、透明性が高まることが期待されます。これにより、保育士の処遇が改善され、より多くの人材が保育業界に参入することが促進されることを望みます。
今後も保育士の処遇改善に関する情報を注視し、制度の変化に対応していくことが重要です。
また、お勤めの園が処遇改善加算のキャリア要件を満たしていなければ、加算を受けられない可能性があります。まずは責任者や管理者に、処遇改善加算の導入について確認してみるとよいでしょう。
回答次第では、積極的に処遇改善に取り組む保育施設に転職することも検討してみるとよいかもしれません。
保育士の平均年収は、その他の業界水準と比較し、まだまだ低いのが実情です。今後もさらなる処遇改善が期待されます。
▼処遇改善だけでなく業務支援システムの導入で働きやすい環境を!