送迎バスの置き去り防止対策を詳しく解説。安全装置ガイドラインなど

近年、相次いで発生した保育施設での送迎バス置き去り事故をうけて、政府はバス送迎時の安全管理・再発防止に向けた緊急対応策を取りまとめました。そして2023年4月から、バス降車時の所在確認と安全装置の設置が義務化されました。

子どもたちの安全を守るためには、ヒューマンエラーをカバーする安全対策が必須です。
この記事では、バス安全装置の概要や国土交通省ガイドラインについて解説します。さらに、ICTと組み合わせた運用例をご紹介します。

送迎バスの車内置き去り事故をうけて

2021年7月に発生した園バス置き去りによる園児の死亡事故に引き続き、2022年9月にも送迎バスの置き去りよる園児の死亡事故が発生しました。相次いで起きた痛ましい事故を受けて、政府は事故の再発防止に向けた緊急対応策を取りまとめました。

ここでは、バス置き去り事故の原因と、政府がとりまとめた緊急対策「こどものバス送迎・安全徹底プラン」について説明します。

置き去り事故の原因

送迎バスの置き去り事故は、死亡やケガ・障害につながらなかったケースも含めると何件も発生しています。
置き去りの直接な原因は、バス降車時の車内確認不足です。しかし、間接的には安全に対する意識不足や職員間での情報共有不足、保護者への確認不足等も原因としてあげられます。

実際に、2022年9月に死亡事故が起きた園では、以下のような問題が明らかになりました。

・降車時の車内確認不足
バス降車時、運転手と乗務員は共に車内に子どもが残っていないかを確認していませんでした。

・降車時の人数確認等の手順の未設定
バス送迎時の運転手の業務内容に、園として降車時の人数確認等を明確に設定していませんでした。同様に、派遣であった乗務員の業務内容にも降車時の人数確認等を求めていませんでした。
また、降車時の人数確認等の手順も決めていませんでした。

・登園管理システムの不適切な運用
園では登園管理システムを導入していたにもかかわらず、実際に降車した園児や人数を確認せずにシステム入力する等、適切でない運用をしていました。
また、園はクラス補助の職員に対して、登園管理システムの適切な確認のタイミングを伝えていませんでした。同職員は、バスの到着前かつ保護者の入力期限の前に登園管理システムを確認してクラス担任に伝えたものの、最終入力情報を確認していませんでした。

・職員間での情報共有不足・保護者への確認不足
クラス担任は、バスに置き去りにされていた子どもが園にいないことを認識していたにもかかわらず、保護者への確認の連絡をしませんでした。

上記のように、同園ではバス送迎に関して所在確認等の置き去り防止のための手順を決めて各職員に周知していませんでした。こうして、いくつもの見逃しが重なり、重大な事故につながりました。

こどものバス送迎・安全徹底プラン

前述の死亡事故をうけて、政府はバス送迎に当たっての安全管理の徹底に関する緊急対策「こどものバス送迎・安全徹底プラン」を取りまとめました。
この緊急対策では、以下の4つの概要が定められています。

① 所在確認や安全装置の装備の義務付け
誰が運転・乗車するかにかかわらず、バスの乗車・降車時に、幼児等の所在の確認が確実に行われるようにするため、府省令等の改正により、幼児等の所在確認と安全装置の装備を義務付ける。

② 安全装置の仕様に関するガイドラインの作成
安全装置の装備が義務化されることを踏まえ、置き去り防止を支援する安全装置(仮称)の仕様に関するガイドラインを年内にとりまとめる。

③ 安全管理マニュアルの作成
車側の対策である安全装置の装備との両輪として、送迎用バス運行に 当たって園の現場に役に立ち、かつ、分かりやすく、簡潔な、安全管理の徹底に関するマニュアルを策定する。

④ 早期のこどもの安全対策促進に向けた「こどもの安心・安全対策支援パッケージ」
(1)送迎用バスへの安全装置導入支援
(2)登園管理システムの導入支援
(3)こどもの見守りタグ(GPS)の導入支援
(4)安全管理マニュアルの動画配信や研修の実施等

引用:こどものバス送迎・安全徹底プラン~バス送迎に当たっての安全管理の徹底に関する緊急対策~(内閣官房・内閣府・⽂部科学省・厚⽣労働省・国⼟交通省・警察庁)

後述でそれぞれ詳しく解説します。

バス降車時の所在確認とバス安全装置設置の義務化について

政府の緊急対策「こどものバス送迎・安全徹底プラン」で、バス降車時の所在確認や安全装置の装備が義務付けられました。
また、改正を行った後の義務化の概要は以下の通りです。

① 乗降⾞の際に点呼等の⽅法により園児の所在を確認
② 送迎⽤バスへの安全装置の装備 及び 当該装置を⽤いて、降⾞時の①の所在確認

参考:「こどものバス送迎・安全徹底プラン」の進捗について(保育所、幼稚園、認定こども園及び特別支援学校幼稚部におけるバス送迎に当たっての安全管理の徹底に関する関係府省会議(第5回))

所在確認とバス安全装置設置の義務化は2023年4月から

バス乗降車時の所在確認とバス安全装置の設置の義務化は2023年4月1日より施行になります。
ただし、安全装置を⽤いた所在確認については1年間の経過措置が設けられています。安全装置を装備するまでは、降車後に車内の確認を怠らないようにするための代替措置を可としています。代替措置の例として、以下の内容が挙げられています。

<代替措置の例>
運転席に確認を促すチェックシートを備え付けるとともに、⾞体後⽅に園児等の所在確認を⾏ったことを記録する書⾯を備えるなど、園児等が降⾞した後に運転⼿等が⾞内の確認を怠ることがないようにする。

引用:「こどものバス送迎・安全徹底プラン」の進捗について(保育所、幼稚園、認定こども園及び特別支援学校幼稚部におけるバス送迎に当たっての安全管理の徹底に関する関係府省会議(第5回))

なお、政府が作成した「こどものバス送迎・安全徹底マニュアル」には、上記の代替措置の例で活用できる、運転席に確認を促すチェックシートがついています。

参考:こどものバス送迎・安全徹底マニュアル(内閣官房・内閣府・文部科学省・厚生労働省)

義務化の対象施設・事業について

乗降車時の所在確認、並びにバス安全装置の装備および装置を用いた所在確認が義務付けられる対象施設・事業はそれぞれ下記の通りです。

所在確認および安全装置の装備が義務付けの施設・事業

  • 認定こども園
  • 幼稚園、特別支援学校
  • 保育所、児童発達支援センター
  • 家庭的保育事業、小規模保育事業、事業所内保育事業
  • 指定児童発達支援事業所、放課後等デイサービス
  • 認可外保育施設(ベビーシッターを除く)
  • 広域的保育所等利用事業

所在確認のみ義務付けの施設・事業

  • 小学校以上の学校(特別支援学校を除く)、専修学校
  • 保育所以外の児童福祉施設(助産施設、児童遊園、児童家庭センターを除く)
  • 居宅訪問型保育事業
  • 指定障害児通所支援事業(指定児童発達支援事業所と放課後等デイサービス以外)
  • 指定障害児入所施設
  • 放課後児童クラブ(放課後児童健全育成事業)
  • 認可外保育施設(ベビーシッターに限る)

違反した場合の罰則について

各園側で適切な対応が行われているか、指導監査等で確認されます。義務違反の場合は、業務停止命令等の対象になります。

バス置き去り防止安全装置について

バス置き去り防止装置は、ヒューマンエラーを補完するための安全装置です。
以下で、国土交通省が作成した安全装置のガイドライン、装置の要件、ガイドラインに適合した製品、補助金について説明します。

国土交通省のバス置き去り防止安全装置のガイドライン

国土交通省は、送迎バスの置き去り防止を支援する安全装置について、仕様に関するガイドラインを策定しました。
装置は、

  • 降車時確認式
  • 自動検知式
  • 上記2つの機能を組み合わせたもの

を対象とし、最低限の要件を定めました。

以下では、「降車時確認式」「自動検知式」の2種類の装置の要件と、両方式に共通する要件について紹介します。

参考:送迎用バスの置き去り防止を支援する安全装置のガイドライン(国土交通省)

降車時確認式の装置

「降車時確認式の装置」とは、運転手等に車内に置き去りにされた子どもがいないか確認することを促す機能を持つ装置です。

車両のエンジン停止後、運転者等に車内の確認を促す音声やブザー等の警報を鳴らします。運転者等は車内を確認し、車両後方に設置された停止装置(ボタン等)を操作すると、警報が止みます。
一定時間内に警報の停止操作をしないと、運転者等が車内確認をせずに車両を離れたとみなし、置き去りの可能性を知らせるために車外に向けて警報を鳴らします。

出典:送迎用バスの置き去り防止を支援する安全装置のガイドラインの対象となる装置(国土交通省)

自動検知式

「自動検知式の装置」とは、カメラ等のセンサーにより車内に置き去りにされた子どもがいないかを検知する機能を持つ装置です。

車両のエンジン停止から一定時間後にセンサーが車内を検知します。車内に置き去りにされた子どもが検知された場合は、車外に向けて警報を鳴らして置き去りの発生を知らせます。

出典:送迎用バスの置き去り防止を支援する安全装置のガイドラインの対象となる装置(国土交通省)

両方式に共通の要件

「自動検知式」と「降車時確認式」の両方に共通する要件は以下の4つです。

  • 運転者等が車内の確認を怠った場合、速やかに車内への警報を行うと共に、15分以内に車外への警報を発すること(※自動検知式は15分以内にセンサーの作動を開始する)
  • 子ども等がいたずらできない位置に警報停止装置を設置すること
  • 十分な耐久性を有すること(例:−30~65℃への耐温性、耐震性、防水・防塵性等)
  • 装置が故障・電源喪失した場合には、運転者等に対してアラーム等で故障を通知すること(※電源プラグを容易に外せない装置に限り、回路を二重系にして故障の確率を低くした場合は電源喪失時の故障の通知要件を緩和する)
出典:送迎用バスの置き去り防止を支援する安全装置のガイドラインの対象となる装置(国土交通省)

安全装置ガイドラインに適合した製品

政府は、安全装置ガイドラインへの適合が確認された製品をリストにまとめて公表しています。

ガイドラインで定められた最低限の機能以外に、子ども自身が押せるSOSボタンや、カメラで車内の様子を確認できる機能、置き去り検知をメールで知らせる機能等、メーカー独自の機能を備えている製品もあります。

参考:送迎用バスの置き去り防止を支援する安全装置のリストについて(こども家庭庁)

補助金について

政府の緊急対策のひとつである「こどもの安心・安全対策支援パッケージ」にて、バス安全装置の導入支援が定められています。2022年9月5日以降に設置したバス安全装置(国土交通省のガイドラインに適合しているものに限る)に対して、設置費用への補助金があります。
装置1台あたりの補助金額上限は以下の通りです。

  • 装備が義務付けられる施設(保育所等):175,000円
  • 義務付けられない施設(小・中学校等):88,000円

ガイドラインに適合した装置のみ補助金対象であるため、補助金を利用して装置を設置したい場合は、「送迎用バスの置き去り防止を支援する安全装置のリストについて(こども家庭庁)」から製品を選ぶと良いでしょう。

参考:「こどものバス送迎・安全徹底プラン」の進捗について(保育所、幼稚園、認定こども園及び特別支援学校幼稚部におけるバス送迎に当たっての安全管理の徹底に関する関係府省会議(第5回))

安全マニュアル・研修動画について

政府は、緊急対策の一つとして安全管理マニュアル「こどものバス送迎・安全徹底マニュアル」を作成しました。

毎日使えるチェックシートや、園の体制確認、送迎業務モデル例、ヒヤリハットの共有等、園ですぐに取り組める内容が簡単にまとめられています。既存の園マニュアル追加する、マニュアルの見直しの参考として活用できます。
詳しい内容については下記の参考リンクをご覧ください。

参考:こどものバス送迎・安全徹底マニュアル(内閣官房・内閣府・文部科学省・厚生労働省)

また、こども家庭庁では上記の安全管理マニュアルの適切な運用を進めるための研修動画も公開しています。動画内では、安全管理マニュアルの使い方を詳しく解説しています。ぜひ下記の参考リンクからご覧ください。

参考:安全管理マニュアル研修動画(こども家庭庁)

他にも、東京都子供政策連携室では「子供のバス送迎・安全対策講習会」の動画を公開しています。
第1回では、バス送迎に当たっての安全管理に関する緊急点検の結果や、すぐに取り組める安全対策を紹介しています。第2回では、事故に対する考え方や具体的な対策、送迎バスの問題について、対策後の「評価」の重要性、役に立つ参考資料等を紹介しています。こちらの動画は下記の参考リンクからご覧ください。

参考:子供のバス送迎・安全対策講習会 第1回(東京都子供政策連携室)
参考:子供のバス送迎・安全対策講習会 第2回(東京都子供政策連携室)

ICTとバス安全装置の組み合わせで安全・安心の運用を

バス安全装置は、バス降車時の車内確認漏れをフォローします。
しかし、送迎バスの運用では、

  • 子どもの出欠管理
  • バス乗車リストの作成、共有
  • 子どもの乗降チェック
  • 職員や保護者間での情報共有、確認

等の作業があり、ヒューマンエラーが起きるポイントがいくつもあります。

そこで、保育ICTと組み合わせることで、バス乗車前と降車後の所在確認・情報共有をスムーズにし、より安全なバス運用体制を整えることができます。

以下で、保育ICTサービス「ウェルキッズ」とバス安全装置を組み合わせた運用例を紹介します。

保育ICT『ウェルキッズ』を活用した運用例

保育ICTサービス「ウェルキッズ」は、

  • 園児管理、登降園管理
  • 出欠連絡
  • 職員間の情報共有
  • 職員と保護者間の情報共有
  • バス運行状況の管理・情報共有

等、バス運用における業務作業をサポートする便利な機能を有しています。
ここでは、「ウェルキッズ」のICTシステムとバス安全装置を組み合わせたバス運用フロー例をご紹介します。

1. バス乗車前の準備

【保護者】
保護者は、事前連絡の受付締め切りまでに、子どもの欠席・遅刻・バス乗車の有無等をアプリで連絡します。
子どもがバスに乗車する場合は、子どもに登園記録用の二次元コード等を持たせます。

【園・先生】
園では事前連絡の受付締め切り後に、パソコンやタブレットPC等(ICTシステム)でバス乗車対象の子どもを確認します。
その後、乗車リストを紙に印刷する、または、バス車内で乗車リストを確認できるタブレットPCを装備する等、運転手や乗務員と乗車リストを共有します。

2. バス乗車時

【運転手・乗務員】
運転手や乗務員は、各バス停において、乗車リストと照らし合わせながら、乗車する子どもを一人ずつ確認します。
合わせて、子どもが二次元コードを持参していることも確認します。

バスが遅延している場合は、管理サイトで遅延情報を更新・発信します。

【保護者】
保護者はアプリでバスの遅延情報・運行状況を確認します。

3. バス降車時

【運転手・乗務員】
乗車した子どもが全員降車したか、車内を確認します。また、バス安全機器を利用して見落としがないか確認します。

最後に、ICTシステムで降車の管理や、管理サイトからバスの到着状況を更新します。

4. 登園時

【園・先生】
子どもが持参した二次元コード、またはタッチパネルを操作して、子どもの登園時間を登録します。
さらに、各クラスでは子どもの登園状況を確認します。

【保護者】
スマートフォンに子どもの登園通知が届きます。登園予定時刻を過ぎても通知が届かない場合は、バス運行状況を確認します。
バス到着後、一定時間(10分等)を過ぎても登園通知が届かない場合は、園に連絡します。

まとめ

バス置き去り事故を防ぐために、2023年4月より、バス乗降時における子どもの所在確認およびバス安全装置の設置が義務化されました。装置の導入に関する補助金も準備されています。また、園ですぐに取り組める安全マニュアルや、研修動画も用意されています。

バス運用の安全対策には、複数の組み合わせが効果的です。
そこで、安全装置との組み合わせとして、ICTの活用をおすすめします。

保育ICTサービス「ウェルキッズ」は、登降園管理や出欠連絡、バスの運行状況等、バス運用における情報共有をスムーズにします。より安全・安心なバス運用ご興味のある方は、ぜひご相談・お問い合わせください。

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