ハイスコープで明日からはじめる質の高い保育【第5回】子どもたちの毎日を整える ~ 日課(デイリールーティン)の力 ~

不適切保育の事例が次々と明るみになっている昨今。保育の質を上げて、子どもたちの成長に貢献するためには何ができるでしょうか? このコラムでは、OECD世界5大幼児カリキュラムの1つに選ばれた「ハイスコープ」から、みなさんの保育に役立つアイデアを紹介します。

なぜ「毎日を整える」ことが大切なのか?

幼児期は、目まぐるしい変化と成長の連続です。昨日までできなかったことができるようになったり、新しい言葉を覚えたり、子どもたちの世界は日々広がっています。この成長を支える土台となるのが、安定した毎日のリズム、すなわち「日課(デイリールーティン)」です。子どもたちにとって「今日一日、何が起こるのか」を予測できることは、安心と自信につながります。ハイスコープの学習環境が「空間を構造化」する(第4回参照)ように、日課は「時間を構造化」します。空間を整えることが子どもの「あそび」を支えるように、時間を整えることは、子どもたちに「次に何が起こるか」という見通しを与え、心の中の不安をやわらげます。

また、予測が可能になることで、自分自身で状況を理解し、対応できるという感覚(コントロール感)が養われていきます。このコントロール感こそが、子どもたちが自らの意思で活動に向かっていく原動力になります。とくに家庭環境が安定していない子どもにとって、毎日変わらず繰り返される日課は、大人からの「ここにいて大丈夫だよ」という無言のメッセージになります。一貫性のある「整えられた毎日」だからこそ、子どもたちは選択肢を持ち、自分の考えを実行する楽しさを味わい、少しずつ自己肯定感を育んでいくことができます。

どのように「毎日を整える」のか?

日課は、子どもたちに何をするかを指示するものではなく、活動の枠組みを示すものです。その枠組みの中で、子どもたちは自分の興味や関心に基づいて自由に選択し、主体的に活動することができます。「毎日を整える」ためには次の5つのポイントが大切です。

  1. 予測可能で一貫性があること
    毎日同じ順番で活動が進むことで、子どもは「これから何があるのか」を見通すことができ、安心して過ごせます。たとえ特別な活動があっても、あらかじめ伝えておくことで、心の準備ができます。
  2. 柔軟性があること
    基本的な流れは決まっていても、子どもの興味や状況に応じて多少の調整ができるようにします。ただし、遠足や行事などの特別な活動は例外です。
  3. 選択肢があること
    子どもたちは、それぞれの活動の中で「どこで」「誰と」「何をするか」などを自分で選ぶことができます。選択できるからこそ、自分で決めたことに責任を持ち、満足感や達成感が育まれていきます。
  4. 学びの機会が豊富であること
    数や順序、比較、因果関係など、1日を通してあそびながら、あらゆる領域の学びの要素を取り入れます。
  5. 活動の流れを「見える化」すること
    一日の活動の流れや、それぞれの活動の時間を、子どもたちが視覚的に理解できるように工夫します。

また、日課は子どもたちに「みんなで一緒に経験している」という感覚をもたらします。同じ時間に同じ活動を共有することで、クラス全体に一体感や安心感が生まれ、子どもたちは互いに学び合うことができるようになります。そして、日々の出来事の規則的な構造化は「順番を理解する」「時間の感覚をつかむ」といった基礎的な力を育みます。その力はやがて、数や数えたり、順番を考えたりする早期の数学的思考や、原因と結果を理解する科学的思考の基礎となります。

ハイスコープが考える「整えられた毎日」

ハイスコープにおけるデイリールーティンは、単なる時間割ではありません。子どもたちが安心して過ごし、自分で考えて行動する力を育むために、意図的に構成された「一日の流れ」です。
それぞれの活動には意味があり、子どもたちが主体的に学べるよう工夫されています。ここでは、ハイスコープのデイリールーティンを構成する9つの活動をご紹介します。

1. モーニング・グリーティングタイム
一日の始まりの時間。子どもと保育者があいさつを交わし、今日も安心して過ごせるよう心を整えます。出席確認や歌、簡単な話題でのやりとりを通して、一日のスタートをみんなで共有します。

2. アウトサイドタイム
戸外でのあそびの時間。体を動かすことを楽しみながら、探索や挑戦を通して運動能力や社会性を育てます。自然とのふれあいも大切な学びのひとつです。

3. ラージグループタイム
クラス全員で歌ったり、体を動かしたり、物語を楽しんだりする時間。みんなで同じ活動を楽しむことで、一体感や協調性が育まれます。

4. スモールグループタイム
少人数で、保育者が用意した教材や素材を使って活動する時間。一人ひとりの興味に合わせて学びを深めたり、手を動かしながら考える力を育てたりします。

5. プラン・ドゥ・レビュー
自由選択あそびを「計画(プラン)→実行(ドゥ)→振り返り(レビュー)」する時間。子どもが自分で考えて決めたことをやってみて、あとで振り返る経験を通して、自信と自己調整力を育みます。

6. ランチタイム
みんなで食事を楽しむ時間。食べることの喜びやマナー、友だちとのやりとりなど、食事を通じた社会性が育まれます。

7. レストタイム
体と心を休める大切な時間。午前中の活動を振り返りながら、静かな時間を過ごすことで、午後に向けてエネルギーを整えます。

8. スナックタイム
午後の活動前の軽食タイム。お腹を満たすだけでなく、食べる準備や片づけなど日常生活の力も育てます。

9. アフタヌーン・グリーティングタイム
一日の締めくくりの時間。今日あったことをみんなでふり返り、気持ちを整理して次の日へとつなげていきます。

このように、ハイスコープの毎日は、一つひとつの活動が「子どもが主体的に育つ」ための大切な時間として組み立てられています。それぞれの活動が毎日保障されている整った一日の流れがあるからこそ、子どもは安心して、自分らしく過ごすことができるのです。

活動の流れを「見える化」することも、子どもたちの見通しを助ける大切な工夫です。デイリールーティンのチャート(時間の流れを示す図)は、ラベルと同様にイラストや写真、言葉など複数の情報を組み合わせて作成し(第4回参照)、左から右へ読む水平型を基本とします。各活動の長さに応じてセクションの幅を変えることで、どの活動が長く続くのかがひと目でわかり、子どもたちが時間の感覚を育む手助けにもなります。また、大きなクリップやピンチを使って現在どの活動にいるかを示し、次の活動に移るたびに子どもたちが自分で位置を動かすことで、一日の流れをより主体的に理解できるようになります。

ルーティンがもたらす保育者へのメリット

日課は、保育者が子どもたちを観察し、発達段階に合った計画を立てるための「枠組み」も提供します。一貫した流れがあることで、保育者は活動パートごとに子どもたちの興味、発達、社会的な関わり方を明確に捉えることができます。そして、この日々の観察から得られる子どもたちへの深い理解は、一人ひとりの成長に合わせた保育計画へと繋がっていきます。

まとめ

子どもたちのためにと、日々柔軟に変更していた日課・・・それが、実は子どもにとって不安やストレスのもとになっていたかもしれません。毎日、同じ流れの中で安心して過ごせることは、子どもにとって「また明日も楽しい一日がはじまる」という前向きな気持ちにつながります。「安心感」や「自信」そして「自分で選ぶ自由」は、子どもが主体的に生きていくための大切な土台です。
ハイスコープの子どもたちは、決められた日課にただ従っているのではなく「自分たちの一日を、自分たちで創っている」と感じながら過ごしています。「やらされている」のではなく「次はこれをやろう」と自ら動こうとする気持ち。それを支えているのが、日課という“時間の地図”です。
明日からでも、ぜひ保育の現場で日課を見直し、子どもたちが「見通し」と「選択」を持てる毎日を、共にデザインしていきましょう。

写真提供:花園保育園

プロフィール:外崎了(とのさきさとる)

米国ハイスコープ教育研究財団 
認定トレーナー
https://highscope.org/

<活動実績>
HighScope Japan 講師
https://highscope-japan.org/

社会福祉法人 愛成会
http://www.sh-aiseien.jp/

幼保連携型認定こども園
花園保育園(青森県弘前市)
https://aiseikai1902.wixsite.com/hanazono

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