ハイスコープで明日からはじめる質の高い保育【第4回】子どもたちが学びやすい環境づくり

不適切保育の事例が次々と明るみになっている昨今。保育の質を上げて、子どもたちの成長に貢献するためには何ができるでしょうか? このコラムでは、OECD世界5大幼児カリキュラムの1つに選ばれた「ハイスコープ」から、みなさんの保育に役立つアイデアを紹介します。

なぜ「学びやすい環境」は重要なのか?

幼児期は、人生の中で最も学びの基盤を築く大切な時期です。子どもたちは一日の大半を保育園や幼稚園で過ごし、その空間は彼らにとって『もうひとつの家庭』となります。この環境で心地よさや安心感を得ることは、子どもたちの情緒的な安定や学びへの意欲に直結します。そして、この空間では、文字の音の認識、絵を描くこと、社会的対立の解決など、さまざまな学びが起こります。知的・情動的・社会的・身体的・芸術的発達のすべての領域で、幅広い学びが自然に起こるように、子どもの興味・関心を引き出し、自発的に関わりたくなる環境を整えることが重要です。

どのように「学びやすい環境」を整えるか?

「学びやすい環境」を整える上で鍵となるのが「構造化」です。「構造化」とは、空間や教材・素材を子どもたちの学びやすい形に整理・配置することを指します。これには以下の2つのポイントがあります。

  1. コーナーを区分けする
    各コーナーを目的に応じて分け、関連する教材や家具を配置します。例えば、制作コーナーでは糊やセロテープなど、お絵かきコーナーでは絵具やクレヨンなどを用意します。

  2. ラベルの活用
    子どもが道具を理解しやすく、使いやすくするために、イラスト、写真、言葉などを組み合わせたラベルを用います。

「構造化」された環境は、子どもたちが自分の力を最大限に発揮しやすくなる「学びの場」を提供し、以下のような利点があります。

  1. 自由な活動選択による学びの深化
    子どもたちは自分の興味に基づいて活動を自由に選び、主体的に学びを深めることができます。

  2. 自立心と自己効力感の向上
    o 物の場所が明確であることで、子どもたちは「物を探す」「取り出す」「片づける」という 行動を自分で繰り返し、問題解決能力を養います。

    o ファインド・ユース・リターン(見つける・使う・戻す)の習慣が身につき、自分の環境をコントロールできる感覚を得ることで、自立心や自己効力感が高まります。

  3. 情緒の安定と安心感の向上
    規則正しい環境は子どもたちに安心感を与え、情緒の安定を促します。

  4. 効率的な時間管理と集中力の向上
    o 物の場所が明確であることで、探し物に費やす時間が短縮され、他の活動に集中する時間が増えます。

    o これにより、ストレスが軽減され、よりポジティブな日常経験を得られます。

このように環境を整えることで、子どもたちは自信を持ち自己効力感を高めながら成長することができます。

ハイスコープが考える「学びやすい環境」

ハイスコープでは空間を区分けするコーナーを「エリア」と呼び、以下の5つの基本エリアがあります。

1.ハウスエリア
ごっこあそびを通じて、社会的スキルや想像力を育てる場所です。キッチンセットや衣装、ぬいぐるみなどを配置します。

2.ブロックエリア
空間認識力や問題解決能力を高めます。大小さまざまなブロックや、一緒に使用する動物や車のおもちゃなどを用意します。

3.アートエリア
自由に表現する力を育てます。折り紙、色画用紙、絵具、クレヨンなどを準備します。

4.トイエリア
小さな子どもの手先の器用さを育むためのビーズやひも、ボタンなどを提供します。

5.ブックエリア
絵本を見たり、疲れた時にゆっくり過ごしたりするスペースです。空間を仕切るためのカーテンや、絵本や図鑑、筆記用具などを整えておきます。

ハイスコープでは、子どものあそびや発達に応じて、興味のあるエリアと教材・素材を区分けしていますが、その教材や素材を使う場所は特定のエリアに限定されません。各エリアの教材や素材は、他のエリアに持ち運んで自由に使うことができます。例えば、ブロックエリアからブロックを持ち出してハウスエリアで家を作り、ごっこ遊びをすることもできますし、他のアイデアでも自由にあそべます。子どもたちはエリアを超えて、教材や素材をミックスし、自分のアイデア次第で自由にあそぶことができます。また、あそびや活動が中断されても、途中で作った作品や使用した素材を、棚の上などにそのまま保管して、翌日以降も安心して続きに取り組むことができます。

「構造化」のもう1つのポイントである「ラベル」についてですが、ハイスコープでは、子どもが収納場所に簡単にアクセスできるように、イラストや写真、言葉など、3つ以上の情報を活用してラベルを作ります。

例:「まつぼっくり」(左図参照)

①教材
・素材の写真(イラストや実物)

②教材
・素材の名前(ひらがなやカタカナ)

③教材
・素材のスペル(英語)

保育者にとっての環境の重要性

室内環境は子どもたちのためだけでなく、保育者にとっても大切な仕事場です。居心地の良い環境は、保育者が質の高い保育を提供する基盤となります。整理整頓された空間は業務効率を上げ、保育者自身の余裕や創造性を引き出します。それが結果的に、子どもたちやその家族にも良い影響を与えることができます。

まとめ

子どもたちが自ら学び、あそび、成長できる場を作ることは、保育者としての重要な役割です。それを支えるのが、構造化され整った学びの環境です。明日からでも、空間の区分けやラベルの工夫を取り入れることで、子どもたちにとっても保育者にとっても心地よい環境を実現しましょう。

写真提供:花園保育園

プロフィール:外崎了(とのさきさとる)

米国ハイスコープ教育研究財団 
認定トレーナー
https://highscope.org/

<活動実績>
HighScope Japan 講師
https://highscope-japan.org/

社会福祉法人 愛成会
http://www.sh-aiseien.jp/

幼保連携型認定こども園
花園保育園(青森県弘前市)
https://aiseikai1902.wixsite.com/hanazono

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