元園長と考える“ほごしゃしえん” 第17回:「うちの子、大丈夫ですか?」と聞かれたら

こんにちは。田村ますみです。

9月になると、少しずつ園生活も変わってきます。運動会などの行事に向けた準備が始まったり、クラスで取り組む活動が増えたり。子どもたちにとっては、いつもの遊びとは違う経験が増える時期です。そして、この時期になると保護者から、こんな言葉を聞くことがあります。

「うちの子、ちゃんとできるでしょうか?」「みんなと一緒にできていますか?」「運動会、大丈夫ですか?」

保育者からすると、「大丈夫ですよ。ちゃんと練習しています。」と答えたくなるかもしれません。もちろん、安心してもらいたいからこその言葉です。でも、私はここで、少しだけ立ち止まってほしいと思っています。

「大丈夫ですよ」と答える前に、「何が心配なんですか?」と聞いてみる。 そこに、保護者支援の大切なポイントがあるからです。

「大丈夫ですか?」の奥には、何がある?

例えば、保護者が、「うちの子、運動会ちゃんとできるでしょうか?」と聞いてきたとします。「大丈夫ですよ。練習もちゃんとできています。」と答えれば、会話は終わります。

でも、「何か心配なことがありますか?」と聞いてみたらどうでしょう。

「去年、みんなの前で固まってしまったので……。」「家では運動会の話を全然しなくて。」「本人が、行きたくないって言うことがあって……。」そんな話が出てくるかもしれません。

保護者が心配していたのは、「運動会ができるかどうか」だけではなかったのです。

「うちの子は、みんなと同じようにできないのではないか。」「先生に迷惑をかけるのではないか。」「この子は大丈夫なのだろうか。」そんな、もっと深い不安を抱えていたのかもしれません。

だからこそ、「大丈夫ですよ」と安心させるだけではなく、「何が心配なのかを一緒に見つける」ことが大切なのです。

保育者には見えている。でも、保護者には見えていない

園では、子どもたちの毎日の姿を見ることができます。

「最初は参加できなかったけれど、少しずつできるようになった」「先生と一緒ならできるようになった」「お友達の姿を見ながら、真似してみるようになった」「途中で嫌になっても、自分で気持ちを切り替えられるようになった」

保育者にとっては、こうした小さな変化がよく見えています。でも、保護者には見えないことがあります。だからこそ、行事の結果だけを伝えるのではなく、そこに至るまでの子どもの姿を伝えることが、保護者支援になります。

例えば、「今日は上手に踊れましたよ。」だけではなく、「最初は少し恥ずかしそうにしていたんですが、お友達が踊っているのを見て、途中から一緒に身体を動かしていましたよ。」と伝える。

すると保護者は、「ちゃんとできたんだ。」だけではなく、「この子なりに頑張っているんだ。」 と、子どもの姿を見ることができます。

「できた・できない」だけで子どもを見ない

行事が近づくと、どうしても、「できたかな?」「みんなと同じようにできたかな?」という視点になりがちです。でも、保育で大切なのは、結果だけではありません。

去年はできなかったことが、今年は少しできた。去年は先生から離れられなかったけれど、今年は一人で参加できた。途中で泣いてしまったけれど、最後までその場にいることができた。それも、その子にとって大きな成長です。

保護者に伝えたいのは、「上手にできた姿」だけではありません。「その子がどんなふうに頑張っていたのか」です。それを言葉にして伝えられるのは、毎日子どもたちを見ている保育者だからこそです。

保護者支援は「安心させること」だけではない

保護者から相談されたとき、「大丈夫ですよ。」と言って安心してもらう。もちろん、それも大切です。でも、本当の安心は、「大丈夫と言われたから安心する」だけではないのかもしれません。

「先生が、うちの子のことをちゃんと見てくれている。」「この子のことを一緒に考えてくれている。」そう感じられたとき、保護者は安心できます。

だから私は、保護者支援とは、保護者の不安を消すことではなく、その不安を一緒に見つめること だと思っています。

園全体で「子どもの育ち」を伝えられる園へ

こうした関わりは、担任の先生だけができればいいものではありません。園長先生や主任、フリーの先生など、園にいる大人みんなが、「この子は今、何ができるようになってきたんだろう。」「この保護者は、何を心配しているんだろう。」という視点を持てると、園全体の保護者支援が変わっていきます。

そして、そのためには、職員同士で子どもの姿を共有することが大切です。

「今日、○○ちゃんが初めて最後まで参加できたよ。」「○○くん、最近お友達の真似をするようになったよ。」そんな小さな情報を職員みんなで共有しておく。

すると、お迎えのときに担任ではない先生から、「今日、○○ちゃん頑張っていましたよ。」と伝えることもできます。保護者にとっては、その一言がとても嬉しいものです。

最後に

研修で先生方とお話ししていると、こんな言葉をいただくことがあります。「田村先生の研修を受けて、保護者の見方が変わりました。」私は、この言葉がとても嬉しいです。

なぜなら、保護者支援で一番大切なのは、難しい対応方法を覚えることではなく、「見る視点」が変わることだと思っているからです。保護者を「対応する相手」と見るのではなく、「子どもの成長を一緒に支えていく仲間」として見る。

子どもを「できた・できない」だけで見るのではなく、「この子は、昨日と比べて何が変わったんだろう」と見る。そんな視点を持つだけで、保護者への言葉は自然と変わっていきます。

9月は、子どもたちの成長を感じる機会が増える季節です。行事の結果だけではなく、その子がそこに至るまでの姿にも目を向けてみませんか。

そして、その小さな成長を、保護者と一緒に喜べる先生でありたい。 私は、そんな保育者がいる園は、きっと保護者にとっても安心できる園になると思っています。

プロフィール:田村ますみ(たむらますみ)

保育園の育成トレーナー・研修講師として、保育士のスキルアップやチーム力向上を支援。園長経験を活かし、現場で役立つ実践的な研修を行う。自身の子育てや、不登校の子を支えた経験を通じ、保護者対応や子どもの心に寄り添う関わり方を伝えることが得意。一般社団法人「チェリッシュ」代表として、子育て支援にも尽力。

コーチングや心理学の専門資格を持ち、保育士が自信をもって子どもと向き合える環境づくりをサポートしている。

この記事を共有する