元園長と考える“ほごしゃしえん” 第16回:「すみません」の奥にある保護者の気持ちに気づいていますか?

こんにちは。田村ますみです。

8月になると、保育園では少し違った子どもたちの姿が見られるようになります。感染症や夏の疲れなどで欠席する子どもが増える時期でもあります。また、家族との時間が増えたり、生活リズムが変化したりすることで、登園時にいつもより甘えが強くなったり、不安定になったりする子もいます。

そんな時、保育者は子どもの様子を見ながら、「今日はゆっくり過ごそうね。」「無理しなくて大丈夫だよ。」と子どもの心と体に寄り添います。

では、その隣にいる保護者の気持ちは見えていますか?

「先生、すみません」の言葉の奥にあるもの

ある朝、園に電話がありました。
「先生、すみません……。今日も熱が下がらなくて、お休みします。」

電話の向こうのお母さんの声は、とても申し訳なさそうでした。もちろん、お母さんは子どものことを心配しています。でも、その「すみません」の奥には、もしかしたら別の思いも隠れているかもしれません。

「また仕事を休まなければいけない。」「職場に迷惑をかけてしまう。」「周りの人にどう思われるだろう。」

子どもの体調不良は、子どもだけの問題ではありません。保護者にとっては、仕事や家庭との調整など、さまざまな不安が一緒にやってきます。

保育者から見ると、「子どもが元気になることが一番。」それはもちろん正しいことです。でも、保護者の立場に立つと、「子どもの心配」だけではなく、「親として、社会人として、どうしたらいいのだろう」という葛藤を抱えていることがあります。

同じ出来事でも、立っている場所が変わると、見える景色は変わります。そこに気づくことが、保護者支援の第一歩なのだと思います。

保護者支援は「正しいことを伝えること」ではない

保育者は子どもの成長を願っています。だからこそ、「もう少し早く寝られるといいですね。」「朝ごはんを食べてきた方がいいですね。」「生活リズムを整えていきましょう。」と伝えることがあります。

もちろん、どれも子どものために必要なことです。

でも、もし保護者が今、「分かっているけれど、できない。」「自分でも困っている。」という状態だったら、正しい言葉だけでは心に届かないことがあります。

例えば、「最近、生活リズムが乱れているようなので、早寝をお願いします。」と言われるより、「夏休みやお盆の時期は生活リズムが変わりやすいですよね。おうちでも大変なことありますよね。」と気持ちを受け止めてもらえた方が、保護者は安心して話すことができます。

大切なのは、伝える前に理解すること。

「なぜできないのか。」ではなく、「何か困っていることはないかな。」と見ることです。

保護者を見る視点が変わると、関わり方が変わる

保護者支援というと、特別なコミュニケーション技術が必要だと思う方もいるかもしれません。でも、私はそうではないと思っています。

大切なのは、「この保護者も、一生懸命子どもを育てている一人なんだ。」と見ることです。

例えば、朝急いでいる保護者。表情が少し険しく見えることがあります。そんな時、「忙しそうだな。」と思うのか、「朝から仕事と子育てで頑張っているんだな。」と思うのかで、こちらの声かけは変わります。

「おはようございます。今日も来られてよかったですね。」「朝、大変でしたね。こちらは大丈夫ですから安心してくださいね。」 そんな一言が、保護者の気持ちを軽くすることがあります。

保護者支援は、特別なことではなく毎日の積み重ね

私は、保護者支援は料理に似ていると思っています。
特別な日に作る豪華な料理ではなく、毎日の食卓にある温かい料理。

「今日もお疲れさまです。」「○○ちゃん、今日はこんな笑顔が見られましたよ。」「一緒に成長を見守っていきましょうね。」

そんな何気ない言葉の積み重ねです。保護者は、完璧な対応を求めているわけではありません。「この先生は、自分の気持ちを分かろうとしてくれている。」そう感じられることが、大きな安心につながります。

園全体で育てたい「相手を見る力」

保護者支援は、経験豊富な先生だけができるものではありません。新人の先生でも、経験が浅い先生でもできます。必要なのは、相手を思いやる視点です。

ただ、忙しい保育の中では、つい園側の視点だけになってしまうこともあります。だからこそ、園全体で、「この場面で保護者はどんな気持ちだろう?」と考える時間を持つことが大切です。

同じ出来事でも、「困ったこと」と見るのか、「何か理由があるサイン」と見るのかで、子どもへの関わりも保護者への言葉も変わります。

最後に

研修で先生方とお話ししていると、こんな言葉をいただくことがあります。「田村先生の研修を受けて、保護者の見方が変わりました。」この言葉をいただくたびに、私はとても嬉しく思います。

なぜなら、保護者支援で一番大切なのは、特別な技術を身につけることではなく、相手を見る視点が変わることだからです。保護者を「対応する相手」ではなく、「一緒に子どもの成長を支える仲間」として見る。

その視点が持てると、保護者との関係は少しずつ変わっていきます。8月は、子どもも保護者も、いつもより心と体が揺らぎやすい時期です。だからこそ、「この保護者は、今どんな気持ちなのだろう。」そんな一歩立ち止まる視点を大切にしてみませんか。

先生方の何気ない一言が、保護者にとって大きな安心になるかもしれません。そして、その安心が、子どもたちの笑顔につながっていくのだと思います。

プロフィール:田村ますみ(たむらますみ)

保育園の育成トレーナー・研修講師として、保育士のスキルアップやチーム力向上を支援。園長経験を活かし、現場で役立つ実践的な研修を行う。自身の子育てや、不登校の子を支えた経験を通じ、保護者対応や子どもの心に寄り添う関わり方を伝えることが得意。一般社団法人「チェリッシュ」代表として、子育て支援にも尽力。

コーチングや心理学の専門資格を持ち、保育士が自信をもって子どもと向き合える環境づくりをサポートしている。

この記事を共有する