元園長と考える“ほごしゃしえん” 第13回:5月の保護者支援「行きたくない」にどう寄り添う?

こんにちは、田村ますみです。

新年度がスタートして1か月。少しずつ園生活にも慣れてきた5月ですが、現場ではこんな声が増えてくる時期でもあります。「連休明けから、急に『行きたくない』と泣く子が増えて…」「保護者への声かけに悩んでいます」

いわゆる“5月の揺らぎ”です。

これは決して特別なことではなく、多くの園で見られる自然な姿です。4月、新しい環境の中で頑張ってきた子どもたちは、連休で一度気持ちが緩み、「やっぱりおうちがいい」「まだ一緒にいたい」という本音が出てきます。

実はこの「行きたくない」は、環境に慣れてきたからこそ出てくるサインもあります。だからこそ大切なのは、この時期をどう“乗り切るか”ではなく、どう“関わるか”です。

保護者の不安は、見えにくい

子どもが「行きたくない」と言い出したとき、一番揺れているのは保護者の心かもしれません。

「うちの子だけ?」「育て方が悪かったのかな」「園で何かあったのでは?」

こうした不安は、言葉にならないまま膨らんでいきます。そして、この不安にどう応えるかで、園への信頼感は大きく変わっていきます。

“ほんの少しの違い”が信頼を分ける

例えば、朝泣いて登園した子どもについて。あるクラスでは、お迎えの際にこう伝えています。

「朝は涙が出ていましたが、5分ほどで落ち着いて、お友達とブロックで遊び始めました。今日はこんな場面で笑顔が見られましたよ」

このように具体的な姿を伝えることで、保護者は「ちゃんと過ごせているんだ」と安心し、次の日の送り出しの表情が少し柔らいでいきます。

一方で、「今日は大丈夫でしたよ」とだけ伝えた場合、間違いではないけれど、「本当に大丈夫だったのかな」という不安が残ることもあります。

また、こんな場面もあります。保護者から「うちの子だけ、こんなに泣いていて大丈夫でしょうか?」と相談を受けたとき。

「大丈夫ですよ、よくあることです」と伝えるだけでは、頭では理解できても、気持ちは置いていかれてしまいます。

そこに、「実はこの時期、同じようなお子さんが多いんです」「○○ちゃんは、泣いてもそのあと自分で気持ちを切り替えて遊べているんですよ」といった具体的な様子や背景が加わることで、保護者の受け取り方は大きく変わります。

この違いは特別な技術ではなく、日々の関わり方と言葉の選び方の積み重ねです。

個人の対応から、園全体の“軸”へ

5月の対応は、個人の力量に任せてしまうとばらつきが出やすい時期でもあります。

・安心して相談が増えていくクラス
・ちょっとしたことでも不安が大きくなるクラス

同じ園の中でも、こうした差が生まれることがあります。

だからこそ、「どのように伝えるか」「どう寄り添うか」という関わりの軸を、園全体で共有できるかどうかが重要になってきます。

実際に、関わり方を職員間で共有し始めた園では、「保護者から相談されることが増えた」「職員が対応に迷う時間が減った」といった変化が見られることも少なくありません。

5月は“整えるタイミング”

もし今、現場の中で「この声かけでよかったのかな」「職員によって対応が違うかもしれない」そんな小さな迷いが生まれているとしたら、それは課題ではなく、“整えるタイミング”です。

5月は、子どもだけでなく、保護者・職員それぞれの揺らぎが見えてくる時期。だからこそ、このタイミングで関わりを見直し、言葉をそろえ、安心の土台を整えていくことが、その後の1年を大きく支えてくれます。

最後に

保護者支援は、特別なことではなく、日々の積み重ねです。だからこそ難しく、だからこそ、整えることで確実に変わっていきます。

現場で起きているやりとりを一つひとつ言葉にしながら、「どう関わると安心につながるのか」を共有していくことで、職員の迷いは自信に変わり、保護者との関係性も、よりあたたかいものになっていきます。

もし、日々の関わりの中で感じていることがあれば、一度立ち止まって整理してみる時間も、大切かもしれません。

プロフィール:田村ますみ(たむらますみ)

保育園の育成トレーナー・研修講師として、保育士のスキルアップやチーム力向上を支援。園長経験を活かし、現場で役立つ実践的な研修を行う。自身の子育てや、不登校の子を支えた経験を通じ、保護者対応や子どもの心に寄り添う関わり方を伝えることが得意。一般社団法人「チェリッシュ」代表として、子育て支援にも尽力。

コーチングや心理学の専門資格を持ち、保育士が自信をもって子どもと向き合える環境づくりをサポートしている。

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