
保育士として働いていると、子どもたちと関わるだけでなく、保護者とのコミュニケーションも大切な仕事の一つになります。
「先生、家では〇〇しているので、保育園でもそうしてください」
「うちの子は甘えん坊なので、もっと手厚く見てもらえませんか?」
「家では叱らない方針なので、園でも怒らないでください」
このように、保護者の価値観と園の方針が合わず、対応に困ることはありませんか?
保護者の意向を尊重しつつ、保育園としてのルールや考え方を守る──
このバランスを取るのは簡単なことではありません。
でも、価値観が違うからといって対立してしまうと、保護者との信頼関係は築けないままになってしまいます。

そこで今回は、保護者との価値観の違いに悩んだときに、どのように対応すればよいのかを具体的に解説していきますね。
目次
1. なぜ価値観の違いが生まれるのか?
まず、大前提として、保護者それぞれの家庭には独自の子育て観があります。それは、育った環境や経験、情報の受け取り方によって作られるものです。
例えば、
・ しつけの考え方:「厳しくしつける vs 自由にのびのび育てる」
・ 食事のルール:「好き嫌いは許さない vs 無理に食べさせない」
・ 遊びの考え方:「外遊び重視 vs 室内で静かに過ごすのが安心」
・ 叱り方・褒め方:「厳しく叱るべき vs 怒らず見守るべき」
これらの考え方は、保育園の方針と必ずしも一致するわけではありません。すると、「園ではこうしてほしい」という保護者の要望と、「集団生活を送る上で必要なルール」との間でズレが生じてしまいます。
このズレを放置すると、
「先生はうちの考えを尊重してくれない!」
「保育園は親の意見を聞いてくれない!」
という不満につながることも…。だからこそ、価値観の違いがあっても、保護者と良好な関係を築くための工夫が必要なのです。
2. 保護者との価値観の違いにどう対応する?
① まずは「共感」を示す
人は、自分の意見を受け入れてもらえないと感じると、心を閉ざしてしまいます。だからこそ、「あなたの考えを理解していますよ」という姿勢を見せることが大切です。
× NGな対応:「それはちょっと無理ですね」「園ではそういう方針なので」
〇 OKな対応:「なるほど、〇〇さんはこういう考えをお持ちなんですね」「確かに、そのお気持ち、よくわかります」
まずは、相手の価値観を否定せずに受け止めることが、スムーズなコミュニケーションの第一歩です。
② 保育園の方針を「理論的に」伝える
共感を示した上で、「なぜ保育園ではこのようにしているのか」を論理的に説明すると、納得してもらいやすくなります。
例①:甘えん坊だから特別に先生と過ごさせてほしい
× :「園では全員平等なので、それはできません」
〇:「〇〇ちゃんの安心感も大切にしたいので、少しずつ集団の中で過ごせるようにサポートしていきますね」
例②:家では叱らないので、園でも叱らないでほしい
× :「保育園ではルールを守るために叱ります」
〇:「園では、ルールを守ることの大切さを伝えるために、時にはしっかりと伝えることがあります。でも、〇〇ちゃんが委縮しないように、必ずフォローもしますのでご安心くださいね」
ポイントは、「できません」ではなく、「こういう理由でこのように対応しています」と伝えること。また、「こうすることで〇〇ちゃんにとっても良い影響がありますよ」と、子どもの成長につながる話をすると、保護者も前向きに受け入れやすくなります。
③ お互いに歩み寄るポイントを見つける
価値観が違うからといって、どちらかが完全に折れる必要はありません。「園の方針は変えられないけれど、できる範囲で配慮する」というスタンスを取ることで、保護者との関係がスムーズになります。
・「家では叱らない方針」と言われた場合、「園では注意するときに、できるだけ優しく伝えることを意識しますね」と配慮する姿勢を見せる。
・ 「好き嫌いは無理にさせたくない」と言われたら、「少しずつ食べられるように促してみますね」と段階を踏むことを提案する。
このように、「園の方針は尊重しつつ、保護者の希望にも耳を傾ける」ことで、トラブルを未然に防ぐことができます。
3. 価値観の違いは「対立」ではなく「理解する機会」
価値観が違うからといって、「この保護者は厄介だ」と決めつけるのはもったいないことです。むしろ、違う考えに触れることで、「なるほど、そういう考え方もあるのか」と学ぶ機会にもなります。
保護者との価値観のズレは、「お互いの理解を深めるチャンス」と捉え、対話を大切にすることが何よりも大事なのです。

まとめ:「違い」を受け入れ、信頼へとつなげる
保護者との価値観の違いに直面したときは、
・まずは共感し、話をじっくり聞く
・保育園の方針を感情的にならずに説明する
・歩み寄れるポイントを見つける
この3つを意識するだけで、保護者との関係はぐっと良くなります。価値観が違っても、「先生と一緒に子どもを育てていきたい」と思ってもらえる関係を築いていきましょう!
プロフィール:田村ますみ(たむらますみ)

保育園の育成トレーナー・研修講師として、保育士のスキルアップやチーム力向上を支援。園長経験を活かし、現場で役立つ実践的な研修を行う。自身の子育てや、不登校の子を支えた経験を通じ、保護者対応や子どもの心に寄り添う関わり方を伝えることが得意。一般社団法人「チェリッシュ」代表として、子育て支援にも尽力。
コーチングや心理学の専門資格を持ち、保育士が自信をもって子どもと向き合える環境づくりをサポートしている。