子どもたちは、毎日の中にたくさんの「ふしぎ」や「なんで?」を見つけながら過ごしています。身近な素材や何気ない出来事が、子どもたちにとっては大きな発見の入り口になります。そんな子どもたちの気づきに目を向けてみると、いつもの保育の中に、たくさんの“探求の芽”が隠れていることに気づきます。
探求は、なにか特別な知識や準備が必要なものではありません。子どもの姿やつぶやき、小さな行動に保育者がそっと目を向けて、視点を変えることができるように声がけすることで、学びは自然に広がっていきます。
『サイエンス+』プログラムでは、日常にある事象をどのように取り上げればよいか、どう子どもたちに声をかければ探求が深まっていくのか、そのヒントが具体的に描かれており、プログラムを進めていくだけでも、子どもの興味・関心が引き出され、気づきが自然と深まる仕組みになっています。
今号は、子どもたちの「なんで?」「どうして?」を自然に引き出し、探求につなげていくための「環境づくり」に注目してみたいと思います。

目次
1.子どもは日常の中に問いを見つける
子どもたちは、日々の生活のなかに、たくさんの“ふしぎ”を見つけています。「どうして氷はとけるの?」「なんでごはんが白いの?」「これ、においがちがう!」そんな問いや発見は、毎日の暮らしのなかで、自然と生まれています。
それを“学び”として扱えるかどうか、視点を変えて物事を見て、そこから世界を広げていけるかどうかは、保育者の関わり方次第です。
保育者が「なんでだろうね」「早く片づけよう」と止めてしまえば、芽生えかけた問いは消えていきます。反対に「ほんとだね、気がつかなかった! 面白いね!」と受け止めるだけでも、そこから探求の扉が開いていくのです。
日々の生活のなかで芽生える子どもたちの小さな「気づき」を、そのまま流さずに丁寧に拾い上げていくことが、探求のはじまりです。
たとえば、コップの水を何度も傾けている子どもがいたら、「音を聞いているのかな?」「水のゆれかたを見ているのかな?」と想像して寄り添ってみる。カーテンの影に隠れている子どもがいたら、「光の模様に気づいたのかもしれない」と思って様子を見続けてみる。こうした日常にあるこどもの行動を肯定的に受け止め、そっと言葉を添えることで、こどもは「自分の感じたことを大切にしていいんだ」と思えるようになります。
その実感が、自分から“もっと知りたい”“試してみたい”という気持ちを生み出し、より深い探求へとつながっていくのです。

2.特別な道具より、“余白”と“視点”
『サイエンス+』では、身近な素材を使った探求を大切にしています。アルミホイル、ストロー、水、葉っぱ・・・どれも特別なものではありません。でも、そこに「どうなるかな?」という問いを添えることで、すぐに実験の世界が広がります。
重要なのは、モノよりも「視点」と「余白」です。あえて全部を用意しすぎない。あえて“正解”を示さず、子どもの発想を待つ。そんな“余白”があると、子どもたちは自分のやり方で手を動かし始めます。
また、同じ素材でも、見る角度や触る順番が違えば、まったく異なる探求が始まります。大人が「切ったらどうなるかな?」「逆さにしたらどうなるかな?」と視点をずらす声かけをすることで、子どもたちの想像力がどんどん広がっていくのです。
たとえば、「ストローをつなげたらどうなるかな?」「葉っぱに酢をいれてしばらくおいたらどうなるかな?」といったように、単なる素材が“問いを生む装置”に変わります。
子どもたちは繰り返し遊びながら、自分なりの“気づき”を重ねていきます。この「自由に操作できる空間」と「自由に考えてよい雰囲気」がそろったとき、子どもたちは本当の意味での探求をすることができます。

3.“環境づくり”は「声かけ」からはじまる
探求を育む環境は、「こどもたちをみるまなざし」から始まります。「すごいね!」「気づいたんだね!」「それ、おもしろい!」といった声かけが、子どもにとっての“探求開始のサイン”になります。
逆に、「ダメだよ」「無理だよ」「やめておいたほうがいいよ」は、“探求NGのサイン”に聞こえてしまうかもしれません。
もちろん、安全や集団の流れを考える必要もありますが、それでも「どうすればその探求心を活かせるか」を一緒に考えていくことが、『サイエンス+』の実践そのものです。
たとえば、水をこぼした時、「あらら、拭こうね」だけで終わるのではなく、「こぼれた水って、どこまで広がるんだろうね?」と問いかけてみると、それが新しい実験のスタートになります。また、落ち葉を拾っている子に「なんでこの葉っぱは赤いんだろう?」と一緒に考えるだけで、気づきが深まります。
探求の芽は、ほんの一言で育ちます。そのためには、保育者も一緒に「問いを楽しむ」気持ちをもっていることがとても大切です。「どうして?」「なんでだろう?」という純粋な疑問をもち、「やってみよう!」「どうなるかな?」とわくわくドキドキしながら大人自身も楽しむことで、子どもに自然と寄り添いやすくなります。
また、保育室の環境そのものも、子どもの問いを引き出す要素になります。自然光が差し込む窓辺に鏡を置いたり、素材や道具を子どもの手が届くところに置いたりするだけでも、「これってどうなるかな?」という探求の入り口がそこかしこに生まれます。 探求とは、“何かを学ばせる場”を設けることではなく、日々の生活の中にある“問いの兆し”に気づくことです。
そして、その問いを拾い、言葉にして、子どもたちと共有することが、環境づくりの第一歩なのです。

4.保育室が“実験室”になる瞬間
『サイエンス+』などの探求活動は、特別な実験室で行うものではありません。保育室、園庭、玄関先、水道まわりなど、日常のなかにある何気ない事象も、視点を少し変えるだけで、すべてが“探求の場”へと変わっていきます。
『サイエンス+』のプログラムは、経験を重ねていくたびに、保育者自身「子どもの視点を引き出す声かけ」や「問いを深めていく関わり方」が自然と身についていきます。子どもと一緒に「なんでだろう?」と考え、試してみる、視点を変えてやってみる——そんな日々を繰り返しているうちに、気づけば“やりたかった保育”が実現できるようになり、保育そのものがもっと楽しく、もっと充実したものへと変わっていきます。
無理に何かを“変える”のではなく、もともと保育者がもっている力や感性が、『サイエンス+』を通してゆるやかに引き出されていきます。その結果として、無理なく、高い質の保育が自然と実践できるようになっていくのです。
『サイエンス+』は、子どもたちの探求心を育むプログラムであると同時に、保育士にとっても日々の実践のなかで自然に学び、気づきを深められる“学びの場”となります。
こうして保育園は、子どもも大人も一緒に楽しみながら、疑問をもち、探求し、自分なりの答えを見つけていける場所になっていきます。
“保育室が実験室になる瞬間”そんな瞬間が、日常のなかに少しずつ広がっていきます。
プロフィール:株式会社E5 佐藤大介(さとうだいすけ)

保育園・幼稚園・療育施設に特化したサービスを提供する株式会社E5は、「現場の声」を形にする企業です。保育療育事業者の視点から、子どもたちの未来を育む場を支えるとともに、現場の負担を軽減する取り組みを行っています。多様なニーズに応える柔軟なサービスで、日々の保育や療育の現場を支援しています。
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