保育士不足の現状は?国や自治体の対策、施設側が取り組むべきことを解説

保育業界は、深刻な人手不足に陥っています。実際に、「人手が足りず、一人ひとりの子どもと向き合う時間が取れない」「募集を出してもなかなか応募が来ない」といった悩みを抱えている保育園は多いでしょう。

本記事では、保育士不足の現状や原因、子どもや保護者への影響などを詳しく解説します。保育士不足を解消するための、保育園側の取り組みも解説するので、ぜひ参考にしてください。

では、なぜこれほどまでに保育士は不足しているのでしょうか。

目次

保育士不足の現状は? 2025年最新データをもとに解説

現在、日本の保育現場では保育士不足が深刻な問題となっています。

まずは、官公庁などのデータから、保育士不足の現状を探っていきます。

保育士の有効求人倍率は約3倍

こども家庭庁のデータによると、2025年7月の保育士の有効求人倍率は2.77倍と、約3倍です。

有効求人倍率とは、簡単に言うと「仕事を探している人1人に対して、何件の求人(仕事の空き)があるか」を表す数字です。

つまり、有効求人倍率が約3倍ということは、1人の求職者を約3社が取り合っている状態といえます。施設側からみると、求人を出しても保育士を採用するのがなかなか難しい状況です。

参考:保育士の有効求人倍率の推移(全国)|こども家庭庁

有資格者の約6割が潜在保育士

厚生労働省の「厚生労働白書」では、保育士資格を持つ人のうち、約6割が社会福祉施設等に従事していない「潜在保育士」であることが分かります。つまり、資格を持っていても、保育士として実際に働いているのは約4割に留まるということです。

参考:令和4年版 厚生労働白書

保育士不足が子供や保護者へ与える影響

保育士が不足していると、社会に対してさまざまな影響が及びます。

待機児童問題

保育士が不足していると、新しい子どもを受け入れることがなかなかできません。その結果、保育園に入園できない「待機児童」が発生し、働きたくても子どもを預けられない保護者が増えてしまいます。

とくに、手厚いサポートが必要な0歳〜2歳児クラスでは、待機児童の増加は深刻な問題です。希望する時期に入園できないことは、保護者の復職を妨げるだけでなく、地域の活力低下にもつながります。

保育の質の低下

人員が不足すると、子ども一人ひとりの「やりたい」という気持ちをじっくり受け止めたり、丁寧に対話したりする時間が不足し、きめ細かな関わりが難しくなります。

また、保育士一人あたりの業務量が増えることで、精神的なプレッシャーや肉体的な疲労が蓄積しやすくなり、現場全体の負担も大きくなります。このような状況が続くと、保育士の離職リスクが高まり、さらに人員不足が深刻化するという悪循環が生まれかねません。

また、保育士一人あたりの負担が増えることで、精神的・肉体的な疲労が溜まりやすくなり、現場全体の負担も大きくなります。

このような状況が続くと、保育士の離職リスクが高まってさらに人員不足が深刻化する悪循環に陥り、保育の質の低下につながりかねません。

保護者・家庭への影響

人手不足により保育士の負担が増すと、保護者への丁寧な報告や相談の時間が十分に取れなくなる可能性があります。

また、急な職員不足で延長保育が利用できなくなるなど、保護者の仕事や生活にも影響が及びます。「子どもの様子が詳しく分からない」「園に頼りきれない」という状況は、保護者にとって大きな不安やストレスになります。

子供の生活や発達への影響

子どもは、信頼できる大人との愛着関係を通じて、心身ともに成長していきます。

しかし、保育士不足で担当が頻繁に変わったり、十分な関わりが持てなかったりすると、子どもの発達にも影響が及びかねません。また、発達に合わせたきめ細やかなサポートが難しくなることも原因のひとつです。

保育士不足はなぜ起こっている?

保育士が慢性的に不足している背景には、複数の要因が絡み合っています。本章では、その中でも以下の特に影響が大きい6つの要因を取り上げ、現場で起きている問題をより深く理解できるよう解説します。

  • 給料が低く離職率が高い
  • 業務負担が大きい
  • 人間関係の悩みを抱える人が多い
  • プレッシャーが大きい
  • 生活が不規則になりやすい
  • 社会的評価がされにくい

原因① 給料が低く離職率が高い

保育士は、子どもたちの命を預かるという、重大な責任のともなう仕事でありながら、見合った給与が支給されていないのが現状です。

ほかの専門職や全産業の平均と比べても、保育士の給料は低めであることが多く、「やりがいはあるが生活が不安」という理由で離職するケースも多く見られます。

原因② 業務負担が大きい

子どもたちのお世話だけでなく、連絡帳の記入や指導案の作成、行事の準備など、保育士の業務量は膨大です。休憩時間が十分に取れなかったり、持ち帰り残業が発生したりすることも珍しくありません。

こうした業務負担の大きさは、心身をすり減らす大きな原因となり、保育士の離職につながっています。

原因③ 人間関係の悩みを抱える人が多い

保育現場では、職員同士のチームワークが不可欠です。職員だけでなく、保護者や地域との関わりなど、多方面でのコミュニケーションも求められます。

職員や保護者との価値観の違いから人間関係に悩む保育士も少なくありません。

保育園は比較的狭いコミュニティなこともあり、人間関係のトラブルが精神的負担につながりやすい環境です。

保育士に限らず、職場の人間関係の悪さは、離職の直接的な原因となります。

原因④ プレッシャーが大きい

保育士は、常に「子どもの命を預かっている」というプレッシャーを抱えながら働いています。安全管理やアレルギー対応、予期せぬ事故やケガへの不安など、精神的な緊張感が一日中続く環境です。

また、「保護者からの期待に応えなければならない」という思いが強い人も多く、プレッシャーに押しつぶされてしまう場合もあります。

原因⑤ 生活が不規則になりやすい

保育園は、シフト制での勤務が一般的です。基本的には早番や遅番にも対応しなければならず、日によって起きる時間や寝る時間がバラバラになりがちです。その結果、自律神経が乱れ、体調を崩してしまう人もいます。

また、友人や家族と予定を合わせるのも難しく、ワークライフバランスを確保しにくいことも、長く働き続ける上でのハードルとなっています。

原因⑥ 社会的評価がされにくい

保育士は社会にとってなくてはならない仕事にもかかわらず、「子どもと遊んでいるだけ」というイメージを持たれることもあります。専門職としてのスキルや仕事の大変さが、社会に正しく理解されていないと感じる人もいるでしょう。

保育士の評価が低く見積もられる環境では、保育の担い手は増えづらくなります。

国による保育士不足の解決策

前述のとおり、保育士の不足は、社会全体に大きな影響を及ぼします。

そのため、保育士不足の問題に対処すべく、国はさまざまな施策を講じています。

保育士処遇改善等加算Ⅰの開始

保育士処遇改善等加算Ⅰとは、保育士の給料を底上げするために導入された仕組みです。職員の平均経験年数に応じて、国から園へ補助金が加算されます。また、賃金改善やキャリアアップの取り組みの要件を満たしている場合は、基礎部分に加えてさらに加算されます。

保育士処遇改善等加算Ⅱの開始

保育士処遇改善等加算Ⅱとは、中堅職員のキャリア形成と昇給を支える仕組みです。

これまでの「園長」や「主任」などの役職に加え、「副主任保育士」や「専門リーダー」といった新しい役職が作られました。一定の研修を受け、これらの役職に就くことで、月額最大4万円の手当が支給されます。

保育士のキャリアの道筋が明確になることで、働く意欲の向上につながっています。

保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業(処遇改善等加算Ⅲ)の開始

保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業は、2022年から始まった支援策です。保育士や幼稚園教諭の収入を、およそ3%(約9,000円)引き上げるため、事業主に費用補助が行われます。

当初は臨時の施策でしたが、現在は「処遇改善等加算Ⅲ」として、これまでの仕組みに上乗せされる形で継続されています。

保育士宿舎借り上げ支援事業の継続

保育士宿舎借り上げ支援事業とは、保育士の家賃負担を軽減する制度です。宿舎の借り上げにかかる費用が、月額最大8万2,000円補助されます。

これにより、保育士の経済的負担が軽減され、安心して働き続けるための大きな助けとなっています。

保育士資格の試験実施回数の増加

より多くの人が保育士として働けるよう、以前は年に1回だった国家試験が、現在は年に2回実施されています。これにより、一度不合格になっても半年後に再挑戦できるため、資格取得までの期間を短縮できるようになりました。

また、受験のチャンスが増えたことで、異業種からの転職者や学生が挑戦しやすくなり、新たな人材の確保を後押ししています。

地方自治体による保育士不足の解決策

保育士不足や待機児童問題は、地域にとっても大きな課題であるため、自治体によっては独自の支援策を行っている場合があります。具体的な支援策は、以下のとおりです。

独自の給料引き上げ制度

国の制度とは別に、自治体が独自に給料の引き上げを行っている場合があります。たとえば、東京都では令和4年2月より約9,000円(収入の3%)の給与引き上げを実施しています。

また、京都府では、保育士のキャリアに応じて求められる役割や業務などを明確化したキャリアパスモデルを導入。これにより、中堅クラスの保育士の給料がが5,000円〜4万円の引き上げとなりました。

奨学金返済支援

自治体によっては、保育士の奨学金の返済を負担する制度を設けています。一定の条件を満たす必要はありますが、毎月の返済負担がなくなることは、将来への安心感や仕事への意欲につながるでしょう。

たとえば、千葉県松戸市では、県とは別に独自の修学資金制度(最大で72万円)を実施しています。松戸市に在住しながら5年間保育士として働いた場合、返済が免除される仕組みです。

家賃補助

国の制度とは別に、独自の家賃補助の制度を設けている自治体もあります。たとえば、東京都では、区により最大13万円の家賃補助を行っています。

保育士が職場に近い場所に住めるよう支援することで、体力の温存や、プライベートの時間をしっかり確保できるといった、生活の質の向上が期待できます。

保育士の子供の優先入園

保育士自身が「子どもを預けられないから復職できない」という状況を防ぐため、多くの自治体が保育士の子どもを保育園に入れやすくする仕組みが導入しています。

たとえば兵庫県神戸市では、親が市内の保育園に月120時間以上勤務で復職する場合、優先度判定で+30ポイントされます。

保育士不足解消のために保育施設側ができることとは?

保育士不足の解消には、保育施設側の積極的な取り組みも必要です。具体的には、以下のような取り組みを検討するとよいでしょう。

給料・手当をアップして定着率を高める

保育士が安心して長く働き続けるためには、仕事の責任に見合った報酬が不可欠です。

国の処遇改善加算を確実に反映させることはもちろん、園独自の賞与や手当を充実させることが求められます。「ここで働けば生活が豊かになる」と実感できる環境作りが大切です。

労働条件を見直す

保育士の労働条件を見直すことも大切です。勤務時間内に事務作業の時間を確保したり、シフトの組み方を工夫して早番・遅番の負担を公平にしたりして、保育士の負担を軽減しましょう。

また、有給休暇を気兼ねなく取得できるような雰囲気作りも欠かせません。心身をリフレッシュできる時間を守ることで、保育士の燃え尽きを防ぎ、定着率を高めることができます。

職場環境を改善する

良好な人間関係を築けるよう、風通しのよい職場文化を作ることも重要です。悩みや意見を言い合えるように定期的な面談を実施し、特定の職員に負担が偏らないチーム体制を構築しましょう。

また、休憩室などの設備を整え、仕事の合間にしっかりと休める場所を作ることも有効です。お互いを尊重し、助け合える環境は、保育士の精神的ストレスを大きく軽減するでしょう。

人員配置に余裕を持たせる

ギリギリの人数で現場を回そうとせず、余裕を持った人員配置を目指しましょう。人数にゆとりがあれば、急な欠勤や行事の準備にも柔軟に対応できるようになります。

また、子ども一人ひとりと丁寧に関わる時間が生まれ、保育の質も向上します。「一瞬も目が離せない」という心理的なプレッシャーも和ぐでしょう。

適切な人事評価制度を設計する

職員が「正当に評価されている」と実感できる仕組みを作ることも重要です。

勤続年数だけでなく、取得した資格やスキルの向上、日々の主体的な取り組みを評価しましょう。評価の結果をフィードバックし、今後のキャリア目標を一緒に立てることで、保育士のモチベーションは大きく上がります。

公平な評価は、将来の昇給やキャリアアップの道筋を見えやすくし、やりがいを生み出します。

保護者への対応を保育士に任せきりにしない

保護者とのトラブルや難しい要望への対応は、担任一人で抱え込ませず、施設全体で関わりましょう。組織が守ってくれるという安心感があれば、保育士は子どもとの関わりに集中しやすくなります。

保育士の精神的な負担を減らし、孤立させない体制を整えることが重要です。

保育施設向けICTを活用して業務効率化する

労働環境の改善には、保育施設向けICTが有効です。

たとえば、登降園管理や指導案作成などにICTシステムを導入すれば、保育士の事務負担は大きく軽減されます。手書きによる膨大な書類作成の手間を省くことで、現場の負担を減らせるでしょう。

情報共有もスムーズになり、連絡ミスや二重作業も防ぎやすくなります。

保育ICTシステム「WEL-KIDS(ウェルキッズ)」で保育業務を効率化

WEL-KIDS(ウェルキッズ)は、多彩な機能が搭載された保育ICTシステムです。園児管理から職員管理、事務管理まで、保育業務を幅広くサポートする機能が搭載されています。

また、子どもの健康・食事・午睡の記録が自動で連携され、連絡帳を自動で作成できるのもポイントです。指導計画や請求書などの書類も手軽に管理でき、保育士の事務作業を効率化することが可能です。

職員同士のコミュニケーション機能も充実しているため、風通しのよい職場作りにも役立つでしょう。

まとめ

保育士不足は、現場の負担を増大させるだけでなく、保育の質や子どもたちの成長にも深刻な影響を及ぼす重要な問題です。国や自治体が進める処遇改善や支援策は、保育士の働きやすい環境を整えるための一歩ですが、施設側でも積極的に取り組む必要があります。

給料の引き上げや労働条件の見直し、職場環境の改善など、保育士が安心して働ける環境を整えることが求められています。

保育士不足の解消に向けて、国、自治体、そして保育施設が一丸となって取り組むことで、子どもたちにとってより良い保育環境を提供できる未来を築いていきましょう。

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