
不適切保育とは、子どもの人権や人格の尊重という観点から、改善を要すると判断される保育士等の関わりを指します。こども家庭庁のガイドラインでは「虐待等と疑われる事案」として整理され、虐待に至る前の段階から防ぐことが求められています。
本記事では、不適切保育の定義や虐待との関係、ガイドラインと虐待の4類型、起こる原因、園がとるべき防止策、発生時の対応と通報、よくある質問までをわかりやすく解説します。
目次
不適切保育とは

まずは、不適切保育とは何かを整理します。虐待との関係や、しつけ・指導との線引きの難しさを押さえておくことが、防止の出発点になります。
不適切保育の定義(人権・人格の尊重の観点から改善を要する行為)
不適切保育とは、子どもの人権や人格の尊重という観点から見て、改善を要すると判断される保育士等の関わりを指す言葉です。
具体的には、子どもを脅すような言葉かけ、罰や制止としての行き過ぎた対応、子どもの気持ちを無視した強制、放置などが含まれます。明確な暴力や虐待だけでなく、日常の関わりのなかにある不適切な言動も対象です。
子どもは自ら声を上げにくく、被害が見えづらいという特徴があります。だからこそ、保育に関わる大人が「これは子どもの人権を尊重した関わりか」と問い直す視点を持つことが、不適切保育を防ぐ出発点になります。
虐待との関係・「虐待等と疑われる事案」という位置づけ
不適切保育は、虐待と地続きの問題として捉えられています。こども家庭庁のガイドラインでは、不適切な保育は「虐待等と疑われる事案」として位置づけられ、虐待に至る前の段階から園全体で防ぐことが求められています。
軽く見える不適切な関わりも、放置すれば深刻な虐待につながりかねません。「虐待ではないから大丈夫」と線を引くのではなく、子どもの人権の観点から早い段階で気づき、改善することが大切です。
しつけ・指導との線引きの難しさ
実務でとくに難しいのが、しつけや指導と不適切保育の線引きです。集団生活を送るうえで、一定のルールを伝えることは必要であり、そのすべてが不適切保育になるわけではありません。
しかし、同じ「指導」でも、子どもの気持ちや発達を無視し、恐怖や苦痛を与える手段をとれば、不適切な関わりになります。判断の基準は、その関わりが子どもの人権・人格を尊重しているか、子どもの最善の利益に沿っているかという点にあります。
保育士個人の感覚に委ねるのではなく、園として基準を共有し、迷ったときに相談し合える環境を整えることが欠かせません。
こども家庭庁・文部科学省ガイドラインと虐待の4類型
不適切保育や虐待への対応の指針となるのが、国のガイドラインです。その概要と、虐待に該当する4つの類型を整理します。
保育所・幼稚園等における虐待防止ガイドラインの概要(令和7年8月改訂)
不適切保育や虐待への対応の指針となるのが、こども家庭庁と文部科学省による「保育所や幼稚園等における虐待の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン」です。
2022年末以降、園での虐待等の事案が相次いで報道されたことを受け、令和5年(2023年)5月に公表され、その後、令和7年(2025年)8月、令和8年(2026年)4月 に改訂されています。
ガイドラインは、園や自治体に求められる取り組みを、未然防止から発生時の対応まで整理して示しています。制度は随時見直されるため、運用にあたっては、こども家庭庁が公表する最新の内容を確認することが大切です。
虐待に該当する4つの類型と具体例
ガイドラインでは、虐待に該当する行為を4つの類型で整理しています。
| 類型 | 内容 | 主な具体例 |
| ①身体的虐待 | 子どもの身体に外傷が生じる、または生じるおそれのある暴行を加えること | 叩く、激しく揺さぶる、身体を拘束する、ご飯を無理やり口に押し込む |
| ②性的虐待 | 子どもにわいせつな行為をすること、またはさせること | 下着のままで放置する、必要のない場面で裸や下着の状態にする、わいせつな目的で撮影する |
| ③心理的虐待 | 著しい暴言や著しく拒絶的な対応など、著しい心理的外傷を与える言動 | 感情のままに大声で叱責する、脅す、無視する、他児と比較して自尊心を傷つける |
| ④ネグレクト | 著しい減食や長時間の放置など、保育を著しく怠ること | おむつを長時間替えない、泣き続ける子を放置する、体調を崩している子に必要な看護をしない |
①身体的虐待
身体的虐待は、叩くといった明らかな暴力だけではありません。午睡のときに身体を押さえつけて寝かせることや、食事を無理やり食べさせることも含まれます。
たとえば、給食をなかなか食べない子に対して、スプーンを口に押し込み「全部食べるまで席を立たせない」と対応するのは、身体的虐待にあたる行為です。
このような場面では、「今日はどれなら食べられそう?」と声をかけ、子どものペースに合わせて量を調整するなど、無理のない関わりを心がけることが大切です。
②性的虐待
性的虐待には、わいせつな行為だけでなく、必要のない場面で子どもを裸や下着の状態にすることも含まれます。
たとえば、プール前の着替えを仕切りのない廊下で一斉に行わせると、子どものプライバシーが守られません。
着替えスペースを区切る、外から見えない配置にするなど、年齢にかかわらずプライバシーに配慮した環境を整えることが求められます。
③心理的虐待
心理的虐待は、言葉や態度によって子どもの心を傷つける行為です。日々の何気ない声かけのなかで起こりやすいため、とくに注意が必要です。
たとえば、「片付けないなら、もうお散歩に連れて行かないよ」と脅すような言葉や、「〇〇ちゃんはできるのに、どうしてできないの?」と他の子と比べる言葉は、子どもの自尊心を傷つけます。
「お散歩の前にお片付けしようね。どこから始めようか?」「ここまでできたね、あと少し一緒にやろう」のように、子どもが前向きに取り組める声かけに言い換えることが大切です。
④ネグレクト
ネグレクトは、子どもに必要な関わりや世話を著しく怠ることを指します。おむつを長時間替えない、体調を崩している子に必要な看護をしないといった行為が該当します。
たとえば、忙しさを理由に、泣き続ける乳児を「そのうち泣き止むから」と長時間抱き上げずに放置することもネグレクトにあたります。
すぐに対応できない場合でも声をかける、ほかの職員に応援を頼むなど、子どもの訴えに応えられる体制をつくっておくことが求められます。
いずれも、子どもの安全と尊厳を守るために防ぐべき行為です。特定の職員を非難するためではなく、その手前にある不適切な関わりの段階で、園全体の仕組みとして防ぐことが求められます。
報道・実態を受けた法・制度の動き
こうしたガイドラインの整備は、相次ぐ事案の報道と、その後の制度の見直しを背景としています。子どもの安全を守るため、園における虐待等の防止や、発生時の自治体への対応の仕組みが強化されてきました。
園には、虐待等を防ぐ体制づくりと、万一の際に速やかに対応・通報することが、これまで以上に強く求められています。制度は今後も変わり得るため、最新の動きを把握しておくことが重要です。
不適切保育が起こる原因

不適切保育は、個人の資質だけでなく、園の環境が要因となって起こります。背景にある主な原因を整理します。
職員の負担・余裕のなさ、研修機会や情報共有の不足
不適切保育が起こる背景には、職員の負担の大きさや余裕のなさがあります。人手不足のなかで一人の保育士が多くの子どもを見ていると、心身に余裕がなくなり、丁寧な関わりが難しくなります。
忙しさや疲れから、つい強い言葉や急かす対応になってしまうこともあります。また、研修の機会が少なく、適切な関わり方や子どもの人権についての学びが不足していると、そもそも何が不適切なのかに気づけません。
職員間で保育を振り返り、情報や悩みを共有する場がないことも、問題の見えにくさにつながります。個人の資質だけの問題として片づけず、こうした環境要因に目を向けることが、防止の第一歩になります。
密室性・組織風土・チェック不在
保育の現場が持つ「密室性」も、不適切保育を生みやすくする要因です。クラスや保育室が閉じた空間になり、ほかの職員の目が届きにくいと、不適切な関わりが見過ごされやすくなります。
また、経験や立場による上下関係が強く、おかしいと感じても声を上げにくい組織風土があると、問題は表面化しません。ダブルチェックや相互に見合う仕組みがなければ、個人の判断だけで保育が進み、歯止めがかかりにくくなります。
外部の目が入りにくい環境ほど、意識して開かれた運営を心がける必要があります。誰の目にも開かれ、気づいたことを言い合える環境をつくることが、不適切保育を防ぐうえで欠かせません。
不適切保育を防ぐための対策

不適切保育は、個人を責めるだけでは防げません。研修・組織づくり・業務負担の軽減という3つの面から、園全体で取り組む対策を整理します。
人権意識を高める研修と自己点検・チェックリスト
不適切保育を防ぐ基本は、職員一人ひとりの人権意識を高めることです。子どもの人権や権利、適切な関わり方について定期的に研修を行い、何が不適切保育に当たるのかを園全体で共有します。
あわせて有効なのが、自己点検やチェックリストの活用です。自分の日々の関わりを、子どもの人権を尊重できているかという観点で振り返る機会を設けることで、無自覚な不適切さに気づけます。ガイドラインや自治体が示すチェックリストを活用し、園独自の基準に落とし込むとよいでしょう。
研修は一度きりで終わらせず繰り返し行い、「知っている」だけでなく、日々の保育で自然に意識できる状態にしていくことが大切です。
風通しのよい組織・相互チェック・記録の可視化
組織づくりの面では、風通しのよい職場をつくることが重要です。立場に関わらず、気づいたことを言い合える関係があれば、不適切な関わりを早い段階で止められます。
複数の職員で保育にあたる、互いの保育を見合うといった相互チェックの仕組みも有効です。また、日々の保育を記録として可視化すれば、関わりを振り返り、問題を早期に把握しやすくなります。
園長や主任が率先して相談しやすい雰囲気をつくり、報告や相談を責めずに受け止める姿勢を日頃から示すことが、開かれた組織風土を育て、問題の早期発見にもつながります。
業務負担の軽減(配置・ICT)でゆとりをつくる
職員に心のゆとりを生むため、業務負担の軽減も欠かせません。配置を見直して一人あたりの負担を減らすことに加え、書類業務などをICT化して効率化すれば、子どもと向き合う時間や余裕を確保できます。
株式会社ウェルキッズが提供する「ウェルキッズ(WEL-KIDS)」の保育ICTシステムを使えば、連絡帳や記録、登降園管理などをまとめて効率化でき、職員の負担軽減につながります。
ゆとりは、丁寧な関わりの土台です。不適切保育は個人の問題として叱責するだけでは防げません。職員が余裕を持って保育にあたれる環境を整えることこそが、根本的な防止策になります。
発生時の対応と通報

万一、不適切保育や虐待が疑われる事態が起きたときは、子どもの安全を最優先に、組織として速やかに対応します。対応と通報の流れを整理します。
発見時の対応と自治体への通報・報告
不適切保育や虐待が疑われる事態に気づいたときは、まず子どもの安全を最優先に確保します。そのうえで、園内で抱え込まず、園長や管理者に速やかに報告し、組織として対応することが基本です。
児童福祉法では、保育所等での虐待を受けたと思われる子どもを発見した場合、市区町村や都道府県に通報することが求められています。
通報は、子どもを守るための正当な行為です。事実を記録し、定められた窓口へ速やかに連絡することで、被害の拡大を防ぎ、適切な対応につなげられます。ためらわずに動くことが大切です。
再発防止と保護者・職員への対応
対応の後は、再発防止に向けた取り組みが欠かせません。何が原因で起きたのかを園全体で検証し、体制や関わり方を見直します。関係した職員への指導や支援、必要に応じた処分も、手続きに沿って適切に行います。
保護者に対しては、事実を誠実に説明し、信頼の回復に努めることが求められます。起きたことを個人の問題で終わらせず、園の仕組みとして改善につなげることが、同じことを繰り返さないために重要です。
【一覧表】不適切保育の主な相談・通報先
| 相談・通報先 | 主な役割・利用場面 |
| 市区町村の保育担当課 | 施設を指導監督する第一の窓口。不適切保育・虐待の相談や通報を受け付ける |
| 都道府県の担当課 | 認可外施設等の指導監督。市区町村と連携して対応する |
| こども家庭庁 | 制度・ガイドラインを所管。方針や相談先の案内を行う |
| 児童相談所(全国共通ダイヤル189) | 虐待が疑われる場合の通告先。「いちはやく(189)」で最寄りにつながる |
| 苦情解決の第三者委員 | 園が設置する第三者的な相談・苦情解決の窓口 |
よくある質問
最後に、不適切保育をめぐって現場で寄せられやすい質問に答えます。
Q1. 同僚の保育が不適切かもしれないと感じたとき、どう声をかけたら良いですか?
同僚の保育が気になったときは、その場でとがめるのではなく、まずは事実を落ち着いて確認することが大切です。「さっきの場面、少し気になったのだけれど」と、責めるのではなく心配する姿勢で声をかけると、相手も受け止めやすくなります。
個人で抱え込まず、園長や主任に相談し、組織として対応することも重要です。園として、気づきを共有し合える関係を日頃から築いておくと、こうした声かけがしやすくなります。
園長・主任は、こうした声や不安を受け止め、責めずに一緒に振り返る姿勢を職員に示すことが求められます。
Q2. 通報すると保育士自身が不利益を受けることはありますか?
子どもを守るための通報は、正当な行為です。虐待等を発見した人が通報したことを理由に、不利益な扱いを受けることがないよう配慮されるべきものとされています。園内で相談・報告した職員が責められることがあってはなりません。
もし職員自身の労働上の不利益が心配な場合は、園内の相談窓口のほか、労働局や労働基準監督署などの外部の相談窓口も利用できます。安心して声を上げられる環境づくりが、園には求められます。
Q3. 「自分がやってしまったかも」と不安になったとき、保育士はどこに相談したらよいですか?
「自分の関わりが不適切だったかもしれない」と気づけること自体が、とても大切な姿勢です。一人で抱え込まず、まずは園長や主任、信頼できる同僚に率直に相談しましょう。
園長・主任は園として、責めるのではなく、なぜそうなったのかを一緒に振り返り、改善につなげることが望まれます。
背景に負担の大きさや余裕のなさがある場合は、体制の見直しも必要です。気づきを前向きに活かせる組織であることが、再発防止につながります。
Q4. 保護者から「不適切保育では」と指摘を受けた場合、園長はどう対応すべきですか?
保護者から指摘を受けた園長は、まず真摯に受け止め、事実を丁寧に確認することが大切です。防犯カメラの記録や複数の職員からの聞き取りなど、客観的に事実を把握したうえで、保護者に誠実に説明します。
事実関係を確認する前に、否定も断定もしない姿勢が求められます。不適切な事実が確認された場合は、謝罪と再発防止策を示し、必要に応じて自治体へ報告します。
日頃から、保護者が相談しやすい関係を築いておくことも、こうした場面での信頼につながります。
Q5. 不適切保育を理由に職員を懲戒処分する場合、どのような手続きが必要ですか?
職員を懲戒処分にする場合は、就業規則に定めた手続きに沿って進める必要があります。
まずは事実関係を確認し、本人に弁明の機会を設けたうえで、処分内容が妥当かどうかを慎重に検討します。手続きに不備があると、処分が無効となる可能性もあるため注意が必要です。
処分の重さについても、行為の内容や程度、これまでの経緯などを踏まえて判断することが大切です。労務に関する専門的な判断を伴うため、社会保険労務士や弁護士に相談しながら進めると安心です。
まとめ
不適切保育は、子どもの人権・人格の尊重に照らして改善を要する関わりであり、虐待と地続きの問題です。こども家庭庁のガイドラインを踏まえ、園は人権意識を高める研修や自己点検、風通しのよい組織づくりに取り組む必要があります。
背景には職員の余裕のなさや密室性があるため、配置やICTで業務負担を減らし、ゆとりを生むことも防止につながります。発生時は自治体への通報と再発防止を徹底し、子どもの最善の利益を守る園運営を心がけましょう。
