
保育園のリスクマネジメントとは、日々の保育に潜む危険をあらかじめ把握し、子どもに深刻な危害が及ばないよう、前もって対策を講じることです。事故やケガ、感染症、災害、不審者など、園が備えるべきリスクは多岐にわたります。
本記事では、リスクマネジメントの意味や園で想定される主なリスク、危機管理マニュアルの作成、予防と発生時の対応、ICTの活用、よくある質問までをわかりやすく解説します。
目次
保育園のリスクマネジメントとは
まずは、保育におけるリスクマネジメントの意味と、似た言葉との違い、そして取り組むうえで欠かせない心構えを整理します。
保育におけるリスクマネジメント(危機管理)の意味
保育園のリスクマネジメントとは、日々の保育に潜む危険(リスク)をあらかじめ把握し、子どもに深刻な危害が及ばないよう、具体的な対策を講じることをいいます。
事故や感染症、災害など、園には多様なリスクが存在し、それらは特別なときだけでなく、日常の保育のなかに潜んでいます。大切なのは、危険をゼロにすることではなく、起こり得るリスクを想定し、被害を最小限に抑える備えを整えることです。
園全体で危機意識を共有し、日々の行動に落とし込むことで、子どもが安心して過ごせる環境を守れます。リスクマネジメントは、保育の質そのものを支える土台といえます。
リスクマネジメントとクライシスマネジメントの違い
リスクマネジメントと似た言葉に、クライシスマネジメントがあります。
リスクマネジメントは、危機が起こる前に予防・準備する平常時の取り組みを指すのに対し、クライシスマネジメントは、実際に事故や災害が起きたときの初動対応や被害の収束を指します。
両者は対になる考え方で、どちらも欠かせません。「起こさない備え」と「起きたときの対応」の両面を整えておくことが、子どもの安全を守るうえで重要です。
「知識」より「意識」・正常性バイアスへの注意
リスクマネジメントでは、「知識」よりも「意識」が大切だといわれます。マニュアルを整えても、職員一人ひとりが危機意識を持たなければ、いざというときに機能しません。とくに注意したいのが「正常性バイアス」です。
「うちの園は大丈夫だろう」「今回も何も起きないだろう」と思い込む心理は、危険の見落としにつながります。この思い込みに気づき、日頃から危機意識を保つことが、事故を防ぐ第一歩になります。
保育園で想定される主なリスク

園が備えるべきリスクは多岐にわたります。ここでは代表的なリスクを整理し、後半の表で、予防・発生時の対応・担当をまとめます。
重大事故・ケガ(睡眠中・水遊び・誤嚥)
保育園で最も注意すべきリスクが、子どもの命に関わる重大事故です。国のガイドラインでは、とくに睡眠中、プールや水遊び中、食事中の誤嚥が、重大事故の起きやすい場面とされています。睡眠中はうつぶせ寝を避け、定期的に呼吸や顔色を確認します。
水遊びでは、監視に専念する職員を配置します。食事では、食材の大きさや形状に配慮し、よく噛んで食べるよう見守ります。
これらの場面は一瞬の油断が重大な事態につながるため、園全体で注意事項を共有し、確実に実践することが求められます。
感染症・衛生、食物アレルギー
感染症・衛生や食物アレルギーも、園が備えるべき重要なリスクです。
感染症は集団生活の場で広がりやすいため、手洗いや消毒、換気、日々の健康観察を徹底し、発生時には隔離や受診、行政への報告など、あらかじめ対応の流れを決めておきます。
食物アレルギーは、命に関わる事態を招くこともあります。献立の確認や除去食の提供、職員間での情報共有を徹底し、誤食を防ぐ仕組みを整えることが不可欠です。
万一に備え、緊急時の対応や救急要請の手順も共有しておきましょう。
災害(地震・火災・風水害)・不審者侵入
災害と不審者侵入は、頻度は高くないものの、起きた場合の影響が大きいリスクです。
地震・火災・風水害などの災害に備え、避難計画や避難経路を定め、定期的な避難訓練と備蓄品の準備、保護者への引き渡し方法の確認をしておきます。
不審者の侵入に対しては、門扉の施錠や来訪者の確認といった日常の管理に加え、侵入時の初動対応や通報の手順を決め、訓練を行っておくことが大切です。
いずれも、誰が何をするかを事前に決め、体が動くよう繰り返し訓練しておくことが、被害を防ぐ鍵になります。
【まとめ表】主なリスクと対応(予防・発生時・担当)
| リスクの種類 | 予防(平常時) | 発生時の対応 | 主な担当 |
| 重大事故・ケガ | 睡眠・水遊び・食事の見守り、環境点検 | 応急手当・救急要請・保護者連絡 | クラス担任・園長 |
| 感染症・衛生 | 手洗い・消毒・換気・健康観察 | 隔離・受診・保護者/行政への連絡 | 看護師・園長 |
| 食物アレルギー | 献立確認・除去食・情報共有 | 誤食時の救急対応・救急要請 | 栄養士・担任・看護師 |
| 災害 | 避難計画・訓練・備蓄 | 避難誘導・安否確認・引き渡し | 全職員・園長 |
| 不審者侵入 | 施錠・来訪者確認・訓練 | 子どもの安全確保・110番通報 | 全職員・園長 |
| 情報漏洩 | アクセス制限・持ち出しルール | 事実確認・関係者/行政への報告 | 園長・事務 |
危機管理マニュアルの作成

想定したリスクに実際に対応するには、危機管理マニュアルの整備が欠かせません。作成のポイントを整理します。
組織体制・連絡体制・役割分担
危機管理マニュアルの土台となるのが、組織体制と連絡体制、役割分担です。危機が起きたとき、誰が指揮を執り、誰が何を担うのかを事前に決めておかなければ、いざというときに動きが止まってしまいます。
園長を中心とした指揮系統を明確にし、子どもの安全確保、救急要請、保護者連絡、行政への報告といった役割を分担しておきます。
また、職員・保護者・行政・消防・警察・医療機関などへの緊急連絡網を整え、連絡の手段とルートを決めておくことも欠かせません。人員が限られる園では、一人が複数の役割を兼ねる前提で、現実的な体制を組むことが大切です。
場面別の初動対応と保護者・行政への報告
マニュアルには、場面ごとの初動対応と報告の流れを具体的に定めます。重大事故、感染症、災害、不審者など、リスクの種類ごとに、最初に何をすべきかを手順として示しておきます。
第一発見者の行動、応急手当や救急要請、子どもの安全確保の方法などを、迷わず動けるよう明文化します。あわせて、保護者への連絡や、自治体・行政への報告の基準とタイミングも整理しておきましょう。
誰が見ても同じ対応がとれることが、マニュアルの目的です。
国・自治体のガイドラインを踏まえる
危機管理マニュアルを作る際は、国や自治体が示すガイドラインを踏まえることが大切です。
こども家庭庁の「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」や、感染症対策のガイドライン、不審者対応に関する通知などが参考になります。自治体が公表するマニュアルの手引きも活用できます。
これらをそのまま使うのではなく、自園の建物の構造や職員体制、地域の実情に合わせて、実際に使える内容に落とし込むことが重要です。定期的な見直しも欠かせません。
リスクを予防し備える取り組み

リスクマネジメントの中心は、日々の予防と、いざというときに備える取り組みです。ヒヤリハットの活用と訓練・研修を柱に整理します。
ヒヤリハット・点検・環境整備による予防
リスクを予防するうえで基本となるのが、ヒヤリハットの活用と日常の点検、環境整備です。ヒヤリハットとは、事故には至らなかったものの「ヒヤリ」とした出来事のことで、その背景には多くの危険が潜んでいます。
ハインリッヒの法則が示すように、1件の重大事故の陰には多数のヒヤリハットがあるとされます。これらを記録し、要因を分析して対策につなげることで、事故を未然に防げます。
あわせて、遊具や設備の定期点検、危険箇所の環境整備を行い、危険の芽を早めに摘むことが大切です。日々の小さな気づきの積み重ねが、大きな事故を防ぎます。
避難訓練・不審者対応訓練・研修
いざというときに動けるようにするには、訓練と研修の積み重ねが欠かせません。避難訓練は、地震・火災・風水害など、さまざまな災害を想定して定期的に行います。実施日や災害の種類を事前に知らせない、より実践的な訓練を取り入れる園もあります。
不審者対応訓練では、子どもの安全確保や通報、職員の役割分担を実際に体を動かして確認します。あわせて、事故防止や救急対応、衛生管理などの研修を通じて、職員全体の知識と対応力を高めておきます。
訓練後には、うまくいかなかった点を職員で振り返り、次の対応に活かすことも大切です。訓練や研修は、マニュアルを「知っている」状態から「実際に動ける」状態へと引き上げる、重要な取り組みです。
ICTを活用した安全・情報管理

限られた人員で安全管理を進めるうえで、ICTの活用は大きな助けになります。記録・連絡の効率化と、情報リスクの管理の両面から見ていきます。
記録・情報共有・緊急連絡のICT化
ICTの活用は、園の安全管理を支える有効な手段です。登降園の記録や健康・安全に関する記録をデジタル化すれば、子どもの状況を正確に把握でき、確認の抜け漏れを防げます。
ヒヤリハットや事故の記録を蓄積・共有すれば、園全体で傾向をつかみ、要因分析や再発防止にも役立ちます。
また、災害や緊急時に、保護者へ一斉に連絡できる仕組みは、安否確認や引き渡しの連絡を迅速かつ確実にします。電話が集中してつながりにくい場面でも、アプリなどでの一斉配信は有効です。
株式会社ウェルキッズが提供する「ウェルキッズ(WEL-KIDS)」の保育ICTシステムを使えば、記録・情報共有・緊急連絡をまとめて行え、限られた人員でも安全管理を効率的に進められます。
個人情報など情報リスクの管理
見落とされがちなのが、個人情報などの情報リスクの管理です。園は、園児や保護者、職員の多くの個人情報を扱っており、その漏洩や紛失は、園の信頼を大きく損ないます。
紙の書類の保管方法や持ち出しのルール、パソコンやタブレットのアクセス制限、パスワードの管理などを定め、職員に周知しておく必要があります。
ICTシステムを利用する場合は、通信の暗号化やアクセス権限の設定など、セキュリティ面の機能も確認しましょう。
万一漏洩が起きたときの報告先や対応も、あらかじめ決めておくと安心です。情報の適切な管理も、園を守るリスクマネジメントの一つとして位置づけることが大切です。
よくある質問
最後に、保育園のリスクマネジメントでよく寄せられる質問に答えます。
Q1. 賠償責任保険などの保険加入もリスクマネジメントに含まれますか?
はい、賠償責任保険などへの加入も、リスクマネジメントの重要な一部です。どれだけ予防に努めても、事故を完全に防ぐことはできません。
万一、園の管理下で子どもがケガをし、賠償責任が生じた場合に備え、保育施設向けの賠償責任保険や傷害保険に加入しておくことは、園と子ども・保護者の双方を守る備えになります。補償の範囲や内容を確認し、自園に合った保険を選びましょう。
Q2. 小規模な保育園でも同じレベルのリスクマネジメントが必要ですか?
小規模な園でも、リスクマネジメントの必要性は変わりません。ただし、人員や体制の規模に合わせて、現実的な形にすることが大切です。
大規模園と同じ組織図をそのまま使うのではなく、一人が複数の役割を担う前提でマニュアルを作り、限られた人数で確実に動ける手順にします。規模が小さいからこそ、一人ひとりの意識と、簡潔で実践しやすい仕組みが重要になります。
Q3. ヒヤリハットと重大事故の違いは何ですか?どこからが報告対象になりますか?
ヒヤリハットは、事故に至らなかった「ヒヤリ」とした出来事を指し、ケガなどの実害がない段階のものです。一方、重大事故は、実際に子どもに重い被害が生じた事故を指します。
国のガイドラインでは、死亡事故や、治療に要する期間が30日以上の負傷・疾病を伴う事故などが、自治体への報告対象とされています。
日々のヒヤリハットを記録・共有して事故を防ぎ、報告対象の事故が起きた場合は、定められた手順で速やかに報告することが求められます。
Q4. リスクマネジメントの取り組みは行政監査や第三者評価にどう活かせますか?
リスクマネジメントの取り組みは、行政の監査や第三者評価で、園の安全への姿勢を示す材料になります。危機管理マニュアルの整備状況、避難訓練や研修の実施記録、ヒヤリハットの活用状況などは、評価の対象になり得ます。
日頃から取り組みを記録に残しておけば、監査や評価の際にスムーズに示せるだけでなく、園自身の振り返りや改善にも役立ちます。記録を整えておくことが、園の信頼にもつながります。
Q5. ヒヤリハットを報告しやすい組織風土を作るにはどうしたらよいですか?
ヒヤリハットを報告しやすい風土づくりには、「責めない」姿勢が何より大切です。報告した職員を叱責すると、報告そのものが減り、危険が見えなくなってしまいます。
ヒヤリハットは個人のミスを探すものではなく、園全体で危険を共有し改善するためのものだと位置づけましょう。書式を簡単にして報告の手間を減らす、共有された事例を前向きに活かすなど、報告してよかったと思える仕組みが、報告しやすい風土を育てます。
まとめ
保育園のリスクマネジメントは、事故・感染症・災害・不審者など多様なリスクから子どもを守るための、園全体の取り組みです。想定されるリスクを洗い出し、組織体制や初動対応を定めた危機管理マニュアルを整えることが基本です。
ヒヤリハットや点検による予防、避難・不審者対応の訓練を重ね、職員の危機意識をそろえておくことが欠かせません。記録や緊急連絡のICT化、情報の適切な管理もあわせて進め、子どもが安心して過ごせる園をつくりましょう。

