元園長と考える“ほごしゃしえん” 第15回:夏になると増える保護者のイライラ。その背景にあるものとは?

「最近、お母さんの口調が少し強い気がする……」「以前は笑顔で話していたのに、最近は表情が硬い」「何気ない伝達に対して厳しい反応が返ってきた」

保育現場で働いていると、このような変化を感じることがあります。特に夏は、保護者とのコミュニケーションに難しさを感じる場面が増える時期です。

職員研修などで保護者対応についてお話をしていると、「保護者との距離感が難しい」「クレームではないけれど対応に悩む」「新人職員が保護者対応に自信を持てない」という声をよく耳にします。

しかし、その保護者の態度は本当に園への不満なのでしょうか。 今回は、夏に増えやすい保護者のイライラの背景について考えてみたいと思います。

保護者も疲れている

子どもたちが暑さで疲れるように、大人も疲れています。暑さによる体力の消耗。夜の寝苦しさによる睡眠不足。食欲の低下。仕事の繁忙期。さらに子育て。保護者は毎日、多くの役割を抱えながら生活しています。

朝は子どもを起こし、支度をし、仕事へ向かう。仕事が終われば、お迎えに行き、夕食を作り、お風呂に入れ、寝かしつける。自分の時間がほとんどない中で、毎日を必死に回している保護者も少なくありません。私が園長時代に出会ったあるお母さんもそうでした。

いつも笑顔で挨拶をしてくださる方でしたが、夏頃から急に表情が硬くなりました。連絡帳の文章も短くなり、送迎時も余裕がない様子でした。職員からは、「何か不満があるのでしょうか」という声も聞かれました。

そこで面談の機会を作ったところ、「実は仕事が繁忙期で毎日帰宅が遅く、子どもにもイライラしてしまっているんです」と話してくださいました。園への不満ではありませんでした。仕事と家庭の両立に精一杯で、心の余裕を失っていたのです。保護者の態度の背景には、私たちが見えていない事情がたくさんあります。

見えている言葉だけで判断しない

保護者支援で大切なのは、表面だけを見ないことです。

例えば、

・挨拶がそっけない
・返事が短い
・表情が硬い
・連絡帳の文章が変わった

こうした変化を見ると、「怒っているのかな」「園に不満があるのかな」と考えてしまいがちです。

しかし実際には、

・仕事のストレス
・夫婦関係の悩み
・経済的不安
・子どもの発達への心配
・睡眠不足

などが背景にあることも少なくありません。だからこそ保育者には、「決めつけない姿勢」が求められます。保護者支援とは、問題を解決することではなく、まず理解しようとすることです。

「大丈夫ですよ」が届かない理由

保護者支援の場面でよく聞く言葉があります。

「大丈夫ですよ」

もちろん励ましたい気持ちから出る言葉です。しかし保護者が求めているのは、解決策よりも理解されることの場合があります。

例えば、

保護者:「最近、子どもに怒ってばかりで……」
保育士:「大丈夫ですよ。みなさんそうですから」

と言われるよりも、「毎日頑張っていらっしゃるんですね」「お母さんも疲れていますよね」と言われた方が心が軽くなることがあります。人は理解されると安心します。安心すると話せるようになります。話せるようになると、自分自身で答えを見つけられるようになります。

保護者支援の第一歩は、アドバイスではなく安心感を届けることなのです。

なぜ今、保護者支援が必要なのか

近年、保育現場では保護者対応の難しさが増しています。保護者の価値観は多様化し、職員とのコミュニケーションに戸惑うケースも増えています。また、新人職員の中には、「何を言えばいいかわからない」「クレームになったらどうしよう」と不安を抱えながら保護者対応をしている人もいます。

その結果、

・対応する職員によって伝え方が違う
・保護者への説明にズレが生じる
・小さな不信感が積み重なる

ということが起きてしまいます。

保護者支援は個人のスキルだけに任せるものではありません。園全体で共通理解を持ち、同じ方向を向いて取り組むことが大切です。

保護者支援を学ぶことはクレーム予防にもつながる

私はこれまで多くの園で研修を行ってきました。その中で感じるのは、クレームの多くは「対応の失敗」ではなく、「関係性の不足」から起こるということです。保護者は突然怒るわけではありません。小さな不安。小さな違和感。小さなすれ違い。それらが積み重なった結果として表面化します。

だからこそ、

・新人保育士向け保護者対応研修
・主任向け相談対応研修
・クレーム予防のためのコミュニケーション研修
・職員間連携を強化する対話研修

などを通して、日頃から関係づくりの土台を整えていくことが大切だと感じています。

おわりに

保護者の態度の奥には、必ず理由があります。私たちに見えているのは、その人のほんの一部分です。だからこそ、「なぜだろう」「何か困っていることがあるのかな」という視点で関わることが、信頼関係づくりの第一歩になります。

子どもの育ちを支えるためには、保護者と園が安心してつながれる関係が欠かせません。そのために必要なのは、特別な技術ではなく、相手を理解しようとする姿勢です。

保育コミュニケーション協会では、保護者対応・クレーム予防・職員間コミュニケーションをテーマとした園内研修を行っています。「保護者との関係づくりを強化したい」「新人職員の対応力を高めたい」「主任が相談対応に自信を持てるようになってほしい」

そんなお悩みがありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。

現場で起きているリアルな事例をもとに、明日から実践できるコミュニケーションをお伝えしています。 子どもを真ん中に、保護者も職員も安心できる園づくりを一緒に考えていきましょう。

プロフィール:田村ますみ(たむらますみ)

保育園の育成トレーナー・研修講師として、保育士のスキルアップやチーム力向上を支援。園長経験を活かし、現場で役立つ実践的な研修を行う。自身の子育てや、不登校の子を支えた経験を通じ、保護者対応や子どもの心に寄り添う関わり方を伝えることが得意。一般社団法人「チェリッシュ」代表として、子育て支援にも尽力。

コーチングや心理学の専門資格を持ち、保育士が自信をもって子どもと向き合える環境づくりをサポートしている。

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