幼稚園教育要領とは?「3つの柱」「10の姿」など子どもの育ちを支える改正後のポイントを解説!

「幼稚園教育要領って何のためにあるの?」「“10の姿”ってどういう意味?」と感じている方もいるでしょう。幼児教育の質を支えるこの要領は、子どもの育ちに深く関わる重要な指針です。

本記事では、幼稚園教育要領の概要や構成、2017年改訂の背景「3つの柱」や「10の姿」などのポイントなどを解説します。

幼稚園教育要領とは

幼稚園教育要領は、幼児教育の質を向上させるための重要な指針であり、文部科学省が策定したものです。この要領は、幼稚園における教育の目的や内容、方法を明確に示し、子どもたちの健全な育ちを支える役割を果たしています。

直近の改訂は2017年3月に行われ、これにより幼稚園教育要領は新たな視点を取り入れました。ここからは、幼稚園教育要領について深掘りします。

なぜ変わった?2017年3月に改訂された背景

幼稚園教育要領は、幼児教育の質を向上させるための重要な指針として位置づけられています。2017年3月に行われた改訂は、時代の変化や社会のニーズに応じた教育の在り方を反映させるために実施されました。

特に、少子化や多様化する家庭環境、子どもたちの育ちに対する期待の変化が背景にあります。文部科学省が発表している「新幼稚園教育要領のポイント」の中で、幼稚園教育要領の目指すものを次のように定義しています。

  • 社会に開かれた教育課程の実現
  • 一人一人の資質・能力を育んでいくこと
  • 小学校以降の教育や生涯にわたる学習とのつながりを見通すこと

出典:新幼稚園教育要領のポイント|文部科学省

幼稚園教育要領の構成

ここでは、幼稚園教育要領がどのような構成によって成り立っているのかを詳しくご紹介します。

<改正前の構成>

第1章 総則
第2 幼稚園教育の基本
第2 教育課程の編成
第3 教育課程に係る教育時間の終了後等に行う教育活動など

第2章 ねらい及び内容
健康
人間関係
環境
言葉
表現

第3章 指導計画及び教育課程に係る教育時間の終了後等に行う教育活動などの留意事項
第1 指導計画の作成に当たっての留意事項
1 一般的な留意事項
2 特に留意する事項
第2 教育課程に係る教育時間の終了後等に行う教育活動などの留意事項

出典:新幼稚園教育要領のポイント|文部科学省

<改正後の構成>

前文
第1章 総則
第1幼稚園教育の基本
第2 幼稚園教育において育みたい資質・能力及び「幼児期の終わりまでに育って欲しい姿」
第3 教育課程の役割と編成等
第4 指導計画の作成と幼児理解に基づいた評価
第5 特別な配慮を必要とする幼児への指導
第6 幼稚園運営上の留意事項

第7 教育課程に係る教育時間の終了後等に行う教育活動など

第2章 ねらい及び内容
健康
人間関係
環境
言葉
表現

第3章 教育課程に係る教育時間の終了後等に行う教育活動などの留意事項

出典:新幼稚園教育要領のポイント|文部科学省

今回の改正では、特に上記の赤字部分に手が加えられた形です。具体的な改善ポイントは次章で詳しく解説をさせていただきます。

幼稚園教育要領の改正ポイントを5つ紹介

幼稚園教育要領は、幼児教育の質を向上させるための重要な指針です。2017年の改訂では、子どもたちの育ちをより一層支えるために、いくつかの重要なポイントが盛り込まれました。ここでは、その改正ポイントを5つ紹介します。

1. 「環境を通して行う教育」に重点を置く

幼稚園教育要領の改訂において、特に注目されるのが「環境※を通して行う教育」に対する重点の置き方です。これは、子どもたちが身の回りの環境と積極的に関わりながら学び、成長することを促すための指針で、以下のように記されています。

    • 幼児の主体的な活動を促し,幼児期にふさわしい生活を展開(幼児は安定した情緒の下で自己発揮をすることにより発達に必要な体験を得ていく)
    • 遊びを通しての指導を中心として第2章に示す狙いが総合的に達成されるようにすること(「遊び」は,幼児にとって重要な「学習」)
    • 一人一人の発達の特性に応じること

    ※環境とは物的な環境だけでなく,教師や他の幼児も含めた幼児の周りの環境すべて

    幼児が身近に環境に積極的に関わり、その中で試行錯誤したり、考えたりすることが、よりよい教育環境を創造することへとつながると記されています。

    2. 育みたい資質や能力を「3つの柱」で明確化

    幼稚園教育要領では、子どもたちが育むべき資質や能力を明確にするために「3つの柱」を設定しています。この「3つの柱」は、幼児教育の質を向上させるための基盤となるものであり、教育の方向性を示す重要な要素です。

    <資質・能力の3つの柱>

    • 豊かな体験を通じて、感じたり、気づいたり、分かったり、できるようになったりする「知識及び技能の基礎」
    • 気づいたことや、できるようになったことなどを使い、考えたり、試したり、工夫したり、表現したりする「思考力、判断力、表現力等の基礎」
    • 心情、意欲、態度が育つ中で、よりよい生活を営もうとする「学びに向かう力、人間性等」

    出典:新幼稚園教育要領のポイント|文部科学省

    これらの柱を軸として、小学校を見据えた教育を徹底するのが大切になります。また、これらの能力は幼いうちにとどまらず、大人になってからも活かされる土台となるでしょう。

    3. 5歳児修了時までに育ってほしい具体的な10の姿を定義

    幼稚園教育要領では、子どもたちが5歳児修了時までに育ってほしい具体的な「10の姿」を定義しています。これらの姿は、子どもたちの成長を支えるための重要な指針となっており、教育現場での実践においても大きな役割を果たしています。

    1. 健康な心と体

    幼稚園教育要領において、最初に掲げられている「健康な心と体」は、子どもたちの成長において非常に重要な要素です。この姿は、身体的な健康だけでなく、精神的な健康も含まれています。

    幼児期は、心と体が急速に発達する時期であり、健全な生活習慣を身につけることが、将来の健康な生活に繋がります。具体的には、幼稚園では、運動や遊びを通じて身体を動かす機会を多く提供し、体力や運動能力を育むことが求められます。

    また、食育を通じてバランスの取れた食事の大切さを学び、心身の健康を支える基盤を築くことも重要です。さらに、ストレスや不安を軽減するための心のケアや、友達との関わりを通じて社会性を育むことも、この「健康な心と体」の一環として位置づけられています。

    2. 自立心

    自立心とは、自分で考え行動する力を育むことを指し、子どもが自分の意志で選択し、決定する能力を養うことが求められます。この自立心を育むためには、日常生活の中での経験が不可欠です。

    例えば、幼稚園では子どもたちが自分で身の回りのことを行う機会を増やし、失敗を恐れずに挑戦する姿勢を促します。具体的には、食事の準備や片付け、遊びの選択など、子ども自身が主体的に関わる場面を多く設けることが大切です。

    また、自立心は社会性とも密接に関連しています。友達との関わりの中で、自分の意見を持ちつつも他者を尊重する姿勢を学ぶことで、より豊かな人間関係を築く力が育まれます。

    3. 協同性

    協同性は子どもたちが社会で生きていくための基盤を築くために欠かせない資質として位置づけられています。具体的には、他者との関わりを通じて、共感や協力の大切さを学ぶことが求められます。

    この協同性を育むためには、日常の活動の中で友達と一緒に遊んだり、グループでのプロジェクトに取り組んだりすることが効果的です。

    例えば、共同で制作するアートプロジェクトや、チームで行うゲームなどを通じて、子どもたちは自然と他者とのコミュニケーション能力を高め、協力することの楽しさを体験します。

    また、協同性は単に他者と一緒に行動することだけでなく、相手の意見を尊重し、理解し合う力を育てることも含まれます。これにより、子どもたちは自分の考えを伝える力や、相手の気持ちを考える力を養い、より良い人間関係を築くための基盤を形成します。

    4. 道徳性・規範意識の芽生え

    幼稚園教育要領における「道徳性・規範意識の芽生え」は、子どもたちが社会の一員として成長するために欠かせない要素です。この姿は、他者との関わりを通じて育まれ、自己と他者の違いや共通点を理解することから始まります。

    幼児期は、道徳的な判断や行動の基礎を形成する重要な時期であり、子どもたちが自分の行動が他者に与える影響を考える力を養うことが求められます。具体的には、友達との遊びや日常生活の中で、ルールを守ることや相手を思いやる気持ちを育てる活動が重要です。

    例えば、絵本や物語を通じて、善悪の判断や道徳的な価値観について考える機会を提供することも効果的です。

    5. 社会生活との関わり

    「社会生活との関わり」は、子どもたちが社会の一員として成長するために欠かせない要素です。この姿は、子どもが周囲の人々や環境とどのように関わり、コミュニケーションを取りながら社会性を育んでいくかを示しています。

    具体的には、友達との遊びや協力、ルールを守ること、他者への思いやりを持つことなどが含まれます。これらの経験を通じて、子どもたちは自分の感情や考えを表現し、他者との関係を築く力を養います。また、社会生活における役割や責任感を理解することも重要です。

    このような社会生活との関わりを育むためには、幼稚園での集団活動や地域との交流が大切です。例えば、園外活動や地域行事に参加することで、子どもたちは実際の社会の中での経験を積むことができます。これにより、社会性や協調性が自然に育まれ、将来的な人間関係の基盤が形成されるのです。

    6. 思考力の芽生え

    「思考力の芽生え」は、子どもたちが自ら考え、問題を解決する力を育むことを目指しています。この思考力は、単に知識を覚えることではなく、観察や実験、対話を通じて得られる経験から生まれるものです。

    幼児期は、好奇心が旺盛で、周囲の世界に対して疑問を持つ時期です。この時期に、子どもたちが自分の考えを表現し、他者と意見を交換する機会を持つことが重要です。

    具体的には、遊びを通じて問題解決に取り組む活動や、グループでの話し合いを通じて、子どもたちが自分の意見を持ち、他者の意見を尊重する姿勢を育てることが求められます。

    また、日常生活の中での小さな疑問や興味を大切にし、それに対する探求心を促すことで、思考力をさらに深めることができます。

    これにより、子どもたちは自分自身で考え、判断する力を養い、将来的にはより複雑な問題にも対応できる力を身につけることが期待されます。

    7. 自然との関わり・生命尊重

    「自然との関わり・生命尊重」は、子どもたちが自然環境と触れ合い、その中で生命の大切さを学ぶことを重視しています。この姿勢は、幼児期における感受性や探求心を育むために不可欠です。

    子どもたちは、自然の中で遊ぶことで、様々な生き物や植物に対する興味を持ち、観察力や思考力を養うことができます。具体的には、園外活動や自然観察を通じて、四季の変化や生態系の仕組みを学ぶ機会を提供することが重要です。

    また、自然の中での体験は、子どもたちにとって心の成長にも寄与します。例えば、虫や花を観察することで、命の尊さや共生の大切さを理解し、他者や環境に対する思いやりを育むことが期待されます。

    さらに、自然との関わりを通じて、子どもたちは自分自身の存在や役割について考える機会を得ます。これにより、生命を尊重する心が育まれ、将来的には持続可能な社会を築くための基盤となるでしょう。

    8. 数量・図形、文字などへの関心・感覚

    「数量や図形、文字への関心・感覚」は、子どもたちが日常生活の中で数や形、文字に触れることで、自然に学びを深めていくことを目指しています。具体的には、遊びを通じて数を数えたり、形を認識したりする活動が推奨されます。

    例えば、ブロック遊びやおままごとを通じて、子どもたちは自然に数量感覚を養い、図形の認識を深めることができます。また、絵本の読み聞かせや文字遊びを通じて、言葉や文字に対する興味を引き出すことも大切です。

    このように、数量や図形、文字への関心を育てることは、子どもたちが自ら学び、探求する力を育むための第一歩となります。

    9. 言葉による伝え合い

    「言葉による伝え合い」は、子どもたちがコミュニケーション能力を育むための重要な要素です。この要素は、子どもたちが自分の思いや感情を言葉で表現し、他者と意見を交換する力を養うことを目的としています。

    言葉を使ったやり取りは、友達との関係を深めるだけでなく、社会生活においても欠かせないスキルとなります。具体的には、幼稚園では日常的に様々な言語活動が行われています。

    例えば、絵本の読み聞かせや、歌を歌うこと、またはお話をする時間を設けることで、子どもたちは言葉の使い方を学びます。これにより、語彙力が増え、表現力が豊かになるだけでなく、相手の話を聞く姿勢や理解力も育まれます。

    10. 豊かな感性と表現

    「豊かな感性と表現」は、子どもたちが自分の思いや感じたことを自由に表現できる力を育むことを目的としています。この姿は、芸術や音楽、言語活動を通じて、子どもたちの感受性を豊かにし、創造力を引き出す重要な要素です。

    具体的には、絵を描いたり、歌を歌ったり、物語を作ったりする活動を通じて、子どもたちは自分の内面を表現する機会を得ます。これにより、彼らは自分の感情や考えを他者と共有する力を養い、コミュニケーション能力を高めることができます。

    また、感性を育むことで、周囲の世界に対する興味や好奇心も深まります。

    参考:3〜5歳の幼稚園児におすすめの室内外遊び30選を紹介!

    4. 幼児理解に基づいた多角的な評価を実施

    幼児一人一人のよさや可能性を把握する考え方は、改正前と同様です。一方で、他の幼児との比較や、一定の基準に到達しているかについて評定によって捉えるものではない点を主張しています。

    また幼児の発達の状況を小学校の教員が、指導上参考にできるよう、指導要録以外の、情報共有のあり方についても言及しているのが特徴です。

    具体的には、日々の記録や実践を写真や動画など誰にでもわかる形で共有・蓄積するとともに、幼児の発達状況を保護者にも連携できる取り組みを進めていくことが肝要だと述べています。

    5. 言語活動の充実化と障害のある幼児や海外から帰国した幼児などへの個別支援の強化

    幼稚園教育要領の改訂において、言語活動の充実は重要なポイントの一つです。言語は子どもたちの思考やコミュニケーションの基盤であり、豊かな言語環境を提供することが求められています。

    具体的には、絵本の読み聞かせや歌、遊びを通じて、子どもたちが言葉に触れる機会を増やし、表現力や理解力を高めることが目指されています。さらに、特別な配慮を必要とする幼児への指導も強化されています。

    障害のある幼児や海外から帰国した幼児は、それぞれ異なる背景やニーズを持っています。これらの幼児が安心して学び、成長できるように、個別の支援が重要です。

    具体的には、専門機関や保護者との連携を強化することで、幼児一人一人の特性に応じた教育を実現することが求められています。

    家庭と園でどう活かす?「10の姿」を子どもの成長の羅針盤に

    幼稚園教育要領における「10の姿」は、子どもたちが成長する上での重要な指針となります。これらの姿は、幼児期に育むべき資質や能力を具体的に示しており、家庭と幼稚園が連携して子どもたちの成長を支えるための基盤となります。

    家庭での教育と幼稚園での教育が一貫していることが、子どもたちの健全な成長を促進するのです。例えば、健康な心と体を育むためには、家庭での食生活や運動習慣が重要です。

    また、自立心や協同性を育てるためには、家庭内での役割分担や友達との遊びを通じて、子どもたちが自ら考え行動する機会を提供することが求められます。さらに、道徳性や規範意識の芽生えは、家庭でのルールやマナーを教えることで育まれます。

    幼稚園では、これらの「10の姿」を意識した教育が行われており、子どもたちが社会生活において必要なスキルを身につけるための環境が整えられています。家庭と幼稚園が協力し合うことで、子どもたちの成長をより一層支えることができるのです。

    したがって、保護者は幼稚園での教育内容を理解し、家庭での実践に活かすことが重要です。これにより、子どもたちが自信を持って成長していくための強力なサポートとなるでしょう。

    まとめ

    幼稚園教育要領は、幼児教育の質を向上させるための重要な指針であり、子どもたちの成長を支える役割を果たしています。2017年の改訂では、教育の内容や方法が見直され、より実践的で柔軟な教育が求められるようになりました。

    特に「3つの柱」や「10の姿」といった新たな概念が導入され、子どもたちが育むべき資質や能力が明確に示されています。

    この要領は、幼稚園だけでなく家庭や地域社会とも連携しながら、子どもたちの成長を支えるための基盤となります。教育者や保護者がこの要領を理解し、実践することで、子どもたちが健やかに成長し、社会で活躍できる力を身につけることができるでしょう。

    今後も幼稚園教育要領の内容を踏まえた教育が進められることが期待されます。

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